始まり
排除屋
家、ビル、車、そして人と蟲の死骸
かつてはそこに沢山の人が住んでいたと分かるその場所は今は近寄ることさえ禁じられている
そこを一人の男が走っていた―正しくは走っていたのではなく逃げていたのだ
タッタッタッタッ―
男は息を荒くしながらも何かから逃げていた
瓦礫を避けながらも、あれが動きを止める一瞬を待つ
まだ姿を現さない何かを、直感で見つけだす
小さな家の瓦礫を跨ぎ―そして飛ぶ
ザッ
此処なら殺れる
体制を整え、剣に手を添える
そして一秒もしない内に何かは姿を現した
蟲
背中からは大きな羽を出し、至る所に何かを壊すのに最適な武器を持っている
その大きな蟲が、男を襲いに姿を現した
口から放つ悪臭が、この蟲がどれだけの人を殺したのかが分かる
男は助走をつけて数メートル先に迫った蟲の背中に飛びのる
だが蟲に弾かれそうになる
何とか避け、ベタベタする蟲の羽を掴み背中に乗ると勢いよく―剣をその背中に突き刺す
ギャャャャァァァァ
蟲が大きな叫び声を上げ、大量の血を吹き出す
だがこの程度では蟲は死なない
剣をもっと深くまで突き刺して抜くと―その傷に向かって大量の爆弾をぶち込む
バッコッッン―
微かな炎と大量の煙が上がり、蟲は死んだ
「ふぅ……」
爆発すると共に逃げたつもりが、思ったより爆風が凄かったな……
蟲の血が付いた頬を擦り、男は立ち上がる
「あ、排除完了?」
コソコソと出てきたのは中年太りの茶髪の男―三十代位だろう
背中には大きなリュックを背負っておりかなり重そうだ
「ああ、そっちは用事済んだのか?」
ぶっきらぼうに答えたのは先ほどの男―背は高いがまだ若い
男は慣れた手付きで剣に付いた血を拭き、鞘に納める
「んー、もうちょっと待ってね此処凄い量でさぁ……」
そう言いながらリュックを地面に下ろし、ニカッと微笑んで軽くパンパンと叩いてみせる
そんな様子を若い男は苦笑気味に見つめる
「よくそんなに元気で居られるな、此処は蟲の溜まり場の一歩手前だぜ?」
そこら辺にあった人の骸を手に取り、一服し始めた男に投げる
「だからこそ、蟲に殺されちゃった人達の遺留品がこんなに残ってるんでしょ?そして俺はその遺留品を売りさばく」
骸を手でとって口をパクパク動かしながら男を嬉しそうに言う
そんな様子を若い男は波面しながら「祟られるぞ」と小さな声で言った
若い男―アギトは年は若いが立派な排除屋だ
依頼を受けて護衛や蟲の排除をしている、大体が高額の料金を払って貰ってだ
後ろの方でドンチャラ騒いでる男はカランと言う常連だ
ただし料金を払わない
「キャー凄いよアギトちゃん!見てみてまだ新しい鉄砲!!馬鹿だね本当にこの持ち主さんまさかこれで蟲倒そうとしたのかな?!!」
あまりにも酷い言いようだと思う……、まさか死んでからこんなに酷い言われようをされようとは思っても見ないだろう
アギトは立ち上がろうと足に力を込めたがすぐに力が抜けてしまう
(あー、体力ヤベーかも……)
毎回此処には来るが、今日ほど蟲に会うのは珍しい―もう今までに十六匹もの蟲を倒している
(今、蟲来たら死ぬな多分……)
爆薬ももう少ししか残っていないし、体力は底をつきそうだし……
「おーい、タヌキ商人そろそろ帰ろうや……」
ゴロンと地面に横になり今回の依頼主に声を掛ける
「えー、ってアギトまさか燃料切れ?」
少し慌てたような声をたててタヌキ商人は此方へ駆け寄ってくる
「当たり前だろ、もうこの二時間で十七匹殺ったんだぜ?そりゃ体力も切れるわ……」
実際自分がこんな状態だから良ーく理解したのか、タヌキはさっさと帰る準備を始める
「んー、やっぱりアギトちゃんもまだまだ子供なんだね……。精神だけはいっちょまえに大人に成って」
最後の言葉は聞き捨てならなかったが、確かに自分はまだ十六歳でまだまだ子供だ
「その餓鬼に守って貰って商売してる三十代はどうなんだろうな……?」
「アギトちゃんさっさと帰るよー」
(くそ……、最悪の大人め……)
悪態を付きながら重い体を引きずって、来たときと同じように車に乗る
(どうか蟲に会いませんように……)
その日の帰り、車は大量の蟲に襲われた
車に乗っていた二人は―
一人は死に
一人は助けられた