射命丸文
大きめの木の上でネタ帳をめくりながらつぶやく。
「記事のネタのストックはそれなりに有るんですけどもっと読者の目を引きそうなものが無いですかね」
そろそろ新聞大会のため、発行部数を伸ばして優勝を狙いたいところである。
「大事件はなさそうですしやっぱり地道に探しなさいということでしょうね」
いくつかの取材候補を思い浮かべると早速取材に向かう。最初は香霖堂だ。
「おや、また珍しいね。山の天狗がここまで来るなんて。取材かい?」
「ええ、何か面白い新商品とか入っていませんか?」
香霖堂は外の世界の道具も売っている古道具店だ。意外に掘り出し物が多い。
「面白い商品か、ならそこのサンドバッグなんてどうだい?使用方法は殴る、蹴るだ。腹が立ったときとかに使うと良いらしい。あと二つほど有るけどどうかな?」
「記事にするにはちょっと……。他に何か有りませんか?」
「本になるんだけど、この呪い系の本なんてどうかな。軽い呪いから死の呪いまで幅広く載っている本だ。」
「最悪ですね。もっと怖くなくて面白く、興味を引きそうなものって無いですか?」
「今の二つがここ最近入荷したので売れているものだよ。だから一応紹介したのだけど、やっぱり駄目みたいだね」
「二つとも用途があまり良くないですし、買った人を取材するのも怖いですからね」
「まあそうだね。次はどこに行くんだい?」
「永遠亭にしようと考えています。あそこもなかなか面白いですし。ところで」
香霖堂は整理されているとは言い難いが商品(非売品がかなり混ざっている)はそれなりに綺麗に保たれている。だがある一角に置かれた物だけは掃除した形跡が無いのだ。
「あそこだけ汚いですけどなぜです?」
「あれはごみだよ。僕はあれらの回収も仕事なんだ。とても不本意だが」
「ならなぜそれを……いや良いです」
彼は基本的に嫌な事、やりたくない事はしない。だから理由を聞こうとするとあからさまに不機嫌になってにらんできたので聞くのをやめる。
「じゃあ次は客としてくることを期待しているよ。ああそういえば前に永遠亭の医者に会った時、精神用の薬のほかにもうひとつ肉体用の薬を開発中だといっていたよ。そっちの方は需要が見込みにくいからゆっくりやっていると言っていたけどもう完成しているころじゃないかな」
「取材に来ました」
「あら、今日は新聞紙を届けに来たわけじゃないのね。折角掃除に使おうと思ったのに」
「発行部数が少ないのは認めますけどもうちょっとマシな使い方してくれませんか?一応頑張って書いているんで」
「ちゃんと読んでから使うわよ。で?何を聞きたいのかしら?」
「実は胡蝶夢丸と一緒に肉体の健康用のお薬を開発していると小耳に挟みまして取材に来た次第です」
「ああ、アレね。残念だけど失敗作よ。今は別の方法でアプローチする薬を研究中ね」
「前の薬はどこが問題だったんですか?」
「肉体に活力を与えるという方向でやってみたんだけど……、飲んだ鈴仙が平均三日くらい連続で眠らずに動き続けて、その後二日眠り続けたわ」
なるほど、確かに失敗作だ。
「怖いのは三日ってきちんと決まっていないことね。二日くらいのときも有れば四日くらいのときも有ったわ。いつ眠るか分からないのよ。だから実験中は鈴仙を永遠亭から出せなかったわ」
「危険ですね。私も空を飛んでいるときに眠ったらと考えるとゾッとします」
「今は長く体の中に留まってその人が必要としている成分を必要な時に与える薬を考え中。でも今度は食事で過剰に取りすぎる問題があるのよね」
「ああ、大変ですね。ではまた」
探してみると案外面白い話が転がっていた。残念ながら記事に出来ない話ばかりだったが。幻想郷全体を漫然と探すだけではなく何かに集中してみるのもいいかもしれない。




