森近霖之助
走ったり早歩きをするのは好きではない。それは心に余裕が無い者がするものだと僕は考えているからだ。確かにそれをすることで時間を節約できたりするだろう。だがただ時間を節約するだけではろくなことが出来ない。時間短縮をしようとするやつはその短縮することで出来た時間を何に使うかきちんと考えていないことが多いからだ。ただ闇雲に時間短縮をし、その空いた時間をもてあまし手軽な娯楽に手を出す。そんなことになるのなら最初から時間短縮などしないほうがいい。そう僕は考えている。だが今ぼくはその好きではない早歩きをして目的地、博麗神社に向かっていた。
「あら、こんにちは。今日はずいぶんとお急ぎですね。」吸血鬼のメイド十六夜咲夜だ。
「ああ、そうだよ。ちょっと霊夢に頼みたいことがあってね。じゃあ急いでいるんで僕はこれで」
「ええ、またお店で」
咲夜と別れてさらに道を進み神社に到着する。そして境内の掃除をしている霊夢に頼む。
「霊夢、さっそくで悪いが紫を呼んでくれ」
「霖之助さん、その前に理由を教えてくれないかしら」
「ああそれは…」
今朝のことだ。僕の店には客はあまり来ない。『客』じゃないやつならよく来るけどさすがに早朝には来ない。だから朝に掃除をしていたら、ガチャンという音とともに窓ガラスが割れ新聞が飛び込んできた。
「はあ、またか。」
紙の価値が下がって以来天狗の新聞大会が盛大に開かれるようになった。そのため新規購読者を獲得しようと天狗たちが号外を配ることが増えた。でも急いでいるのか知らないけど窓ガラスを割ってまで配らなくてもいいと思う。おかげでまた窓に新聞紙を張らなくてはいけなくなる。今では窓が新聞紙で作った障子みたいになっている。
「まったくなんでこうも乱暴に配るんだ。もう少し丁寧に配ってくれないものか。」
一応配られた新聞をざっと読むがほとんど中身が無い内容だった。最近はこんなのばかり配られる。考察が深められると思い定期購読している文々。新聞も同じだ。
「こんな内容じゃガラス割ってまで届ける必要ないじゃないか。まったくこういうはた迷惑な行事は身内だけでやって欲しい。」とぐちを言いながら新聞を窓に張る。この作業を慣れてしまったことが悲しい。
「新聞大会はまだ先のはずなのにもうこの有様か。新聞大会が終わるころにはガラスの部分より開いた穴の部分のほうが大きくなっているかもしれな、ぐっ!!」一瞬何が起きたか分からなかったがすぐに額に何かが当たった事が分かった。そして外から聞こえる天狗らしき声、どうやら新聞が当たったようだ。肉体が人間より丈夫なはずの僕ですら耐え難い痛みが走る。思わず額を押さえのた打ち回りそうになったところへさらに追い討ちをかけるようにまた新聞が頭に当たった。
どうやらしばらくの間気絶していたようだ。日はすでに高く上り、僕の周りには四部の新聞が転がっている。今まで面倒ごとが増えた程度にしか思っていなかったがそれが間違いだとはっきりと分かった。危険すぎる。これではただでさえ来ない客が全く来なくなるだろう。いや客以外も来なくなりかねない。それだと僕は何のためにこの店を開いたのか分からなくなる。これは放置していい問題ではない。早急に解決する必要がある。とはいえこれまで手を打たなかったわけじゃない。ポストを拾ってきて窓の近くに置いた事もあった。もっとも木製だったのですぐに壊されたが。
「参ったな。一応案は浮かぶがすぐに出来なかったり効果があまり無いものばかりだ。どうしたものか。…そうだ!紫に頼もう。」
「…というわけで呼んで欲しい」
「へえ、まあ、いつでも呼べるけどただってわけに行かないことぐらい霖之助さんも知っているわよね?」
「もちろんだ。服の修復十回分のツケを減らそう」
「えっ!今までのツケ全部じゃなくて?」
「割と簡単に出来ることなんだろう。今のでもやりすぎじゃないかと思っているんだけどね。」
「分かったわ。じゃあすぐに呼ぶから気をつけてね。これやると外の世界の近くにいるものが放り出されることがあるから」
霊夢が結界が緩め始める。すると空中に切れ目が走り中華風の派手な服装をした少女が現れる。
「霊夢、これが危険だと何度も言っているはずよね。仏の顔も三度までというけど三度なんてとっくの昔に過ぎているわよ」
「しょうがないでしょ、霖之助さんのところのツケ減らさなきゃならないんだから」
「欲に忠実なのがあなたらしいと言えばそうなのだけど、もう少し慎重に行動して欲しいわね。さて機嫌良さそうって訳じゃないみたいだけどどうしたのかしら?」
紫に先ほどと同じ話を話す。すると呆れたような表情になって、
「確かにあんな紙ごみを届けるためだけに窓を割るのは問題よね。まあそれ以外でも普通は割ってはいけないのだけど。そうねえ、もっと丈夫なガラスに交換してしまいましょう。金属製のポストもつけたほうがいいわね。これでどうかしら」
「ああ、それで頼みたい。あとお代は出来れば借りたいのだが」
「あらあら私に借金なんて霊夢以来ね。でもあなたも霊夢と同じでちょっと普通じゃ返せそうに無いわね。となると何らかの働きで返してもらうことになるわね。じゃあ家電ごみを集めてもらいましょうか。後で説明するけど最近そういったごみが増えているのよ。処分しようと思っているけどあっちこっちにあるから回収が面倒なのよね。集めてくれたら月に一回取りに行くわ。それでいいかしら?」
「それで構わない」
「あと担保にいくつか非売品を持っていっておくから頑張りなさいね」
「ああ、仕方ないさ」
「さて取引も終わったことですし、結界を緩めたことに関する説教とお仕置きをしながら行きますか」
その後店に着くまで延々と説教された。




