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89. アルぺの実

 露店でお姉さんに売ってもらった実をインベントリから取り出し、いつもの作業台に置く。

 丸く、色は薄緑で、持ち上げて嗅いでみれば、少し甘い香り。

 鑑定してみれば、[アルペの実]という名前みたいだ。


 [アルペの実:ほのかに甘い果汁が特徴の実]


 試食で食べたときにも思ったけど、たぶんこれは現実世界でいうところの、りんごだと思う。


「んー……、まずは果汁でジュースを作ってから、薬と混ぜれるか試してみようかな」


 というわけで、まずは[アルペの実]を水で洗い、拭いてから包丁で切る。

 そのあいだに、シルフにすり鉢セットと清潔な布を用意してもらい、洗ってもらった。

 そして、乾かしたすり鉢に布を敷き、細かく切った[アルペの実]を、その上に乗せて潰していく。


「ある程度潰れたところで、布で包むように持ち上げて……」


 中の実を搾るように、手に力を加えていけば、すり鉢の中に果汁が絞り出されていく。

 ただ、この作業、かなり力が必要かもしれない……。


「これは……、結構大変だね……」

「なにか道具があれば良いのですが……」


 少し休憩してから、絞った果汁を数本の瓶に詰めていき、そのうちの一本を軽く飲んでみる。

 舌を伝わる甘味が、少し疲れた体に浸透していくような気がした。

 出来ればこの果汁を使って、上手いことお薬に味が付けれればいいんだけど……。


「とりあえず、ポーションを作る時に水に混ぜるかなぁ……?」

「でも、混ぜるにしても、どのタイミングで混ぜるのでしょう……?」

「んー……。そもそも、これに熱を加えても大丈夫かどうか、から調べてみるかなぁ……」

「そうですね。それが良さそうです」


 小さい鍋に瓶1本分を移し、火にかけていく。

 少し温まってくれば、次第に甘い匂いが強くなってきたように感じた。


「んー……、味もちょっとだけ甘くなってるみたい」


 少しだけお玉で掬って、飲んでみれば、強くなった味に驚いた。

 この味なら、お薬の味にも負けない気がする……。


「火にくべても、問題なさそうですね」

「うん。これならお薬を作ってる最中にいれても、大丈夫かな?」


 といっても、お薬と果物を組み合わせるだけだから、そんなに変なことにはならないと思うんだけど……。

 あと、混ぜるタイミングとしては、薬草と合わせる前の水に混ぜる、薬草と合わせて煮てる最中に混ぜる、全部終わって最後に混ぜる、くらいかな?

 一つずつやっていくとして……、まずは最初から混ぜてみるかな……。


「えーっと、果汁の分だけ水の量を減らして……」


 いつもの鍋に水を入れていき、そこに果汁を追加。

 水と果汁が混ざるように、火にかける前によくかき混ぜておくことも忘れないでっと……。


「あとはいつも通り、刻んだ薬草を加えて火にかけて……」


 次第に浮かび上がってくる灰汁をお玉で取り除き、ある程度のところで火を止める。

 シルフにお願いして、冷ましてもらったあと、瓶に詰め替えていけば……。


「うん、ひとまず完成、だね」


 見た目的には、いつもとほとんど変わらない。

 少しだけ匂いが甘く感じる気がする……。

 ただ、鑑定してみても、表示される文字は普段の[最下級ポーション(良)]と変わらなかったけど。


「んー……、飲んでみるしかなさそうだね……」

「そう、ですね……」

「一応、水をすぐ飲めるように用意しておいてっと……」


 いざとなればすぐに手が届くように、近くに水を置いておく。

 また、シルフも実体化して、もし僕が倒れそうになったとしても、支えられるよう傍に立った。


「よしっ!」


 腰に手を当てて、一気にポーションをあおる。

 口当たりの良い、アルペの味がして……。


 直後、それを上書きするかのように、薬草の苦味が一気に襲ってきた。


「んぐっ!?」


 甘さを感じたせいか、余計に強く感じた苦味が、どろりと喉を抜けていく。


「うへぇ……」


 なんとか飲みきって息を吐けば、喉の奥から薬草の苦味と、アルペの甘味が同時に戻ってきて、余計に気持ち悪い……。

 これは、確実に……失敗……。


「これは、ダメだ……」

「みたいですね……」


 用意しておいた水を飲みながら、シルフと少し話をして、気分を紛らわしていく。

 というか、これはほんとにダメ。

 こんなのを、戦闘中に飲んだら、絶対危険すぎる。

 特に、甘味の後に苦味とか、もう完全に劇薬みたいなものじゃないか……!


「ん……? もしかすると、上書きで消すんじゃなくて」


 ふと、頭に思い付いたことを、考えもせずに口に出してしまう。

 だけど、なんだかその考えが……、根拠もないのに正しいような気がした。

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