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74. プレイスタイル

 トーマ君が探してくれた雨宿り場所は、僕が気絶した時にいた穴よりも広く大きかった。

 4人で向かい合うように座ったとしても、十分な余裕がある、そんな木の穴だった。


 とりあえず一番弱っているであろう青い髪の彼女を奥に座らせ、その近くに僕。

 そして、アルさんが僕の対面に座り、トーマ君は出口に一番近い場所で外を見るように背を向けて座った。


「外は見とくで?」

「ああ、頼む」


 短く言葉を交わし、トーマ君は外へ集中し、アルさんは僕らに向けて居住まいを直した。

 そうしてまっすぐに彼女を見つめるアルさんの身体から、なんだかピリピリしたオーラが出てる気がする。

 ……イケメンが真面目な顔をすると、怖く感じることもあるんだなぁ……。


 ふと気になって彼女の方を見てみれば、彼女も同じような雰囲気を悟ったのか、少し緊張してるような……怖がってるような顔を晒していた。


「まず自己紹介をしようか。俺はアストラル……みんなからはアルと呼ばれている。それで後ろのやつが、」

「俺はトーマ。すまんかったな、君しか助けれんくて」


 アルさんの言葉を引き継いで、トーマ君がそう口にする。

 濡れた髪が邪魔だったのか、右手で髪を抑えながら振り返った彼の目は、どこか少し悲しげで……いつものトーマ君と違っていた。

 そんな彼の目が僕に向いたことに気付き、僕は小さく頷いて口を開いた。


「すでに名乗りましたけど、私はアキ。すみません、起こすためとはいえ、なんどか身体を触ってて……」

「いえいえ、大丈夫です。むしろ助けて頂き、ありがとうございます。もちろんおふたりも」


 彼女は僕の言葉に首を振り、そして僕ら3人へと目を配ってから深く頭を下げた。

 その動きが酷く丁寧で、ゆっくりと……それでいて綺麗に動く彼女から、僕は目を逸らせなかった。


「申し遅れました。私はカナエ、水属性魔法メインの魔法使いです」

「水属性……ですか?」

「ええ。水の玉をぶつけたり、雨を降らせたり……どちらかといえば援護向きの属性でしょうか」

「そうだな。身内にはいないが、そういった戦い方をしているプレイヤーを見たことがある。地上を走る敵に対し、ぬかるんだ地面はなかなかの凶器たり得る、ということだ」


 な、なるほど……。

 ちなみに、よく漫画なんかで見る、体中の水分を操って……というのはできないらしい。

 いや、できたら大変なことになるからできなくていいんだけど。


「しかし、なぜあんな所にいたんだ? 他のメンバーは……」

「死んだわ。俺が介入する直前にな」

「……っ」


 アルさんの切った口火を、重く静かな声が蓋をするように遮る。

 淡々と言われたその言葉は、どこか冷たくも感じて……カナエさんの身体が小さく震えた。


「……本当、なんだな?」

「ああ、見える距離やったからな。それに嘘を吐いても意味がない」


 背中合わせなのに、まるで睨み合っているかのような緊張感が走り、僕の耳の中でうるさいくらいに雨の音が響く。

 張り詰めた空気に声も出せず、吸う息すら薄くなってしまったかのよう。

 数秒、そんな状態が続いたかと思うと、アルさんはおもむろに大きな溜息を吐いた。


「……わかった、トーマの言葉を信じよう。それでカナエさんでしたか? あなたは何をしに森の方へ?」


 アルさんの溜息のおかげで弛緩した空気に大きく息を吸いつつ、僕は水袋を取り出して喉を潤していく。

 あー……喉を抜ける水の冷たさが気持ちいいなぁ……。


「何を、と言われると……」

「蜘蛛のエリアに踏み込んでいたことから察するに、雨の日に蜘蛛が巣を張らないことを知っていた……。それで森の奥に行ってみることにした、というところですか?」

「概ね、その通りです。私たちは普段から組んでいるパーティーというわけではなく、ある情報を元に集まったパーティーで……」


 そこからカナエさんが語ってくれた内容は、つまりこういうことだった。

 雨の日に蜘蛛が巣を張らないという情報を得たとあるプレイヤーが、現状プレイヤーでは誰も到達していないと言われている森の奥へと行くプランを立てたらしい。

 その招集に集まった腕に覚えのあるメンバーで雨の日を狙って決行し、現状に至る……ということらしい。

 僕が驚いたのは、トーマ君以外に情報のやり取りをメインにやってるプレイヤーがいたことだろうか。

 どうも、そのプレイヤーも天気が読めるらしいし、トーマ君とは気が合うんじゃないかな?


「しかし、巣を張らないという情報だった蜘蛛が……あんなに大きな巣を作っているだなんて」

「確かに……俺たちも一度危険な状態になりましたから」


 どうも情報が違うというよりも、情報が不十分だった感じだ。

 色々聞いて見ると、蜘蛛は確かに弱くなっているらしいし、蜘蛛の巣も減っているみたいで、本来蜘蛛の出るエリアでは至る所に張られている巣が全然ないとか。

 でもその代わり……僕らの出会ったような大型の巣が何カ所かにあるみたいだ。


「なるほど、事情はわかりました。それで、カナエさんはこれからどうするつもりですか?」

「どう、とは?」

「そうですね……森から出るために動くのか、夜明けまでここで雨をしのぐのか、といったところですか」


 アルさんの言葉にカナエさんは何も返さない。

 まるで何かを考えているような……それでいて躊躇っているような、そんな不思議な感じがした。


 数分ほど、雨の音だけが穴の中で響く。

 張り詰めてるわけじゃないのに、なぜか居心地の悪さを感じ、僕が口を開こうとしたその時……「それは」とカナエさんが言葉を発した。


「あなた方のお手伝いをする、というのはダメでしょうか?」

「……ほう?」

「今の時間にあの場所にいたということは、あなた方も森の奥へ向かう予定だったのではないでしょうか? そして、先ほども仰られていましたが、蜘蛛相手に危険な状態となり、進みあぐねてるという状況かと」

「へぇ……」


 彼女の予想に、アルさんだけでなく、背を向けていたトーマ君も小さく声を漏らす。

 あの2人を相手にしながらまったく引いてない……凄い、なんて思っている僕を置いて、彼女はさらに言葉を紡いだ。


「トーマさん、アルさんのお力は、少し見た私でも分かるほどに強力です。それにアキさんも……何か不思議な力があるみたいですね」

「――ッ!?」

「そんな方々が集まってなお進めていないという状況です。……戦力不足、ではないですか?」

「それ、は……」


 あくまでも穏やかな声で話すカナエさんに、アルさん達も上手く返せないようだ。

 相手が喧嘩腰だったらもっと勢いで返せるんだろうけど、こうもゆったりと穏やかに喋られると、なんだか調子が狂うというか……。


「実際、戦力は不足しとるわ。今のままやったら、あの巣を超えるんはキツいやろな」

「トーマ!?」

「その点、姉さんやったら確かにカバーできるかもしれんな。なんてったって、蜘蛛が苦手な水を扱える魔法職なんやし」

「だ、だがな……」

「アル、PKに関しては考えんでもええ。仮にPKでも、動く前に俺がやれる」


 背を向けたまま、言葉を遮るように断言されたことで、アルさんは渋々といった表情で頷いた。

 しかし、なんだって?

 ぴーけー?


「ああ、PKというのはプレイヤーキラー……つまり、俺達のようなプレイヤーを相手に戦うプレイヤーのことだ。正当な理由、条件で戦うことをPvPというのに対し、PKはそういった縛りがない……無差別的に攻撃を行うプレイヤーのことを指す場合が多いな」

「えっと……PvPがスポーツみたいなもので、PKは犯罪みたいな感じですか?」

「そう思ってもらっても構わない。PKはだまし討ちや、初心者狩りのような行為も行うことが多く、嫌われていることが多いプレイスタイルだ」


 だまし討ちや初心者狩り……つまり、今回もカナエさんを囮にだまし討ちするんじゃないかってことかな?

 だから、カナエさんがPKかも知れないってアルさんは疑っていたけど、トーマ君がそれを否定したってことか。

 なるほど……。


「ま、あとはアルと姉さんで話し合って決めてくれや。その代わり……アキ」

「ん?」


 めんどくさげに言い捨てた後、トーマ君は僕を呼ぶ。

 指をクイッと曲げて……近くに来いってことらしい。

 トーマ君は外の監視で動けないわけだし、僕が行くしかないか……と、彼の隣りまで移動すれば、彼は少し横にずれてその場所を空けてくれた。


「アキ、性別の件は俺とアル以外には言うなよ」


 耳元に口を近づけて、僕にだけ聞こえる声量で彼はそう口にする。

 言葉を発する度に撫でる風がこそばゆくて、僕は壊れた人形のように激しく首を振り、頷いた。

 けど、彼にはそんな僕の動きが面白かったのか、フッ……と僕の耳に息を吹きかけてから顔を離した。


「っひゃん!?」


 身体を走る妙な感覚に、思わず変な声が口から漏れる。

 悪戯が成功したみたいな顔で笑う彼に、仕返しをしてやろうと顔を近づけると、彼の視線が僕ではない方向へと動いた。

 気になってその視線の先を追えば……そこには、僕らの方を見て呆れた様子のアルさんと、顔を赤くしたカナエさんの顔があった。

2019/05/06 改稿

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