68. 2人目
「ごめんなさい。折角助けてくれたのに……」
「謝ることじゃない。そうだろう、トーマ?」
「せやな。そんなんより、もっと欲しい言葉があるわ」
さっきまでの暗いモヤモヤした気持ちが、アルさんの手を取ると不思議と晴れて、僕の口からは素直に謝罪の言葉が出た。
そんな僕の言葉を受け取りつつ、アルさん達は少し意地悪げに笑う。
「……助けてくれて、ありがとう」
「おう! それでええんやで」
「ああ、仲間だからな。1人も欠けさせるつもりはない」
「トーマ君、アルさん……」
さっき見せられた笑みとは違う。
見るからに喜んでいるという笑みを見せてくれた2人に、なんだかすごく温かい気持ちが溢れてきた。
仲間って、こういうものなのかな?
「ま、でもアレやな。アキが弱いってのは分かっとったんやけど……予想以上やったわ」
「……うぐっ」
「トーマ……言い方をもう少し包んでだな」
「包みようがないで?」
身も蓋もなく言い放つトーマ君に、僕だけじゃなくアルさんやシルフまで呆然とした顔を向ける。
いや、それはその……わかってはいるんだけど……。
「いや、しかし……アキさんも頑張っては、いるぞ……?」
「あの、アル様? そんな自信の無い言い方は……アキ様は確かに、お強くはありませんが……」
フォローをしようとしてくれたアルさんとシルフの言葉に、僕の心がメッタ刺しにされる。
強くないなんて、わかってはいる。
わかってはいるんだけど……シルフにまで言われるなんて――
「……みんなして」
「あ、アキ様?」
「みんなしてっ!」
「落ち着いてください、アキ様!」
ふつふつと湧き上がる照れのような怒りのような、そんな感情に任せて、僕が口を開く。
その感情が伝わったからか、シルフが止めようと抱きついてくるけれど、そんなこと知ったものか!
僕だって――
「みんなして、なんや? アキは弱かろうと、薬も作れるし。それに、可愛らしいんやからええやんか」
半ば頭が沸騰していた僕に、トーマ君が軽い口調でそんなことを言ってくる。
あまりにも場に合わないような言葉に、シルフも呆気にとられたのか、抑えつける力が弱まった。
そのことに気付いた僕は、一気にシルフを振りほどき、勢いのままに叫んだ。
「僕だって男だ! 弱い弱い言うなー!」
「あ、アキ様ー!?」
◇
「ほう。なるほどな」
「だ、黙っててごめんね……? その、タイミングとかその……」
「……ま、別にええわ」
「え?」
アバターについての秘密を打ち明けた僕に対し、トーマ君は一瞬考える素振りを見せたかと思うと……すぐさまあくび交じりにそう言葉にした。
あまりにも、あまりにもな返答に、僕の頭は理解が追いつかない。
別にいいって……それでいいの?
「何を驚いてんのかは知らんけど、なんとなく納得したってことや。口調も仕草も、妙な違和感があったんも、全部納得がいくからな」
「そ、そう?」
「せやで。ま、君は気付いてへんのやろうけどな」
「……むう」
むくれる僕を見て笑いつつ、トーマ君はゆっくりと立ち上がり、穴の外へと身体を向ける。
そして、インベントリからダガーを数本取り出すと「そんで、身体に不調やらは無いんやな?」と訊いてきた。
「あ、うん。大丈夫だと思う」
「そか。ならええな」
小さく笑ったような音がして……直後、彼は外へとダガーを投げる。
外は雨……それもまだまだ強さを維持したままの雨の中に。
しかし、そんな中から、獣のような低い唸り声が聞こえてきた。
「アル」
「ああ。……何体だ?」
「さっきの声のが1匹。周りにも数匹……これは蛇やな。重なり合っとるからか、数はわからん」
「いるのは正面だけか?」
「あー……いや、ちょい離れとるんやけど、左手側に1匹おるな」
「ふむ」
アルさんは考えるような素振りを見せつつ、チラリと僕を横目で見る。
……もしかすると、これは。
「トーマ君。僕が左手側に行ってもいいかな?」
「あん?」
「……無理はしない」
呟くように言った言葉に、振り返ったトーマ君の口が三日月に歪む。
そして彼は数本のダガーを山なりに僕へと投げてきた。
「貸したる。返さんでもええ」
「え、でも……」
「牽制くらいには使えるやろ。アキ、ひとつだけ教えたる」
ダガーを持ったまま戸惑う僕に、トーマ君は真面目な顔を作って言った。
「勝つんは2番目や。……まずは生きることを考えろ」
「……わかった」
しっかりと頷き返す僕に、トーマ君の口はまたしても三日月に歪む。
そんな僕らを見て納得したのか、アルさんは大剣を抜き、穴の外へと向けた。
「俺とトーマが前、アキさんは左側だ。――行くぞ」
「ま、危なくなったら逃げてきーや。助けたるわ」
「うん!」
一気に突っこんでいく2人に、僕の返事が聞こえたのかどうかは分からない。
……大丈夫、僕は僕に出来る、僕の戦い方をしよう。
「行こう、シルフ」
「はい! アキ様」
2019/04/20 改稿




