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40. おじいちゃんと

 目を疑うとは、このことなのかも知れない。

 僕の視界に飛び込んできた屋根は、話に聞いていた緑色の屋根で――そして、鍬の刺さった屋根だった。

 しかも、3本も。


「って、1本じゃないんだ!?」

(そ、そうみたいですね……)


 無造作に刺さっている鍬は、なぜかどれも違う形で、オーソドックスな鍬、爪みたいになっている鍬、そしてツルハシのように背に突起がある鍬……うん、まったく理由が分からない。


「ま、まぁおじさんが言ってた家ってここだよね?」

(こちら以外に条件の合うお家はありませんので、そうかと……)

「よし、一旦鍬については忘れよう」


 言葉と一緒に視界から鍬を外して、眼前に見える玄関らしきドアへと近づく。

 ノックをすれば、コンコンと硬い木の音が響くが……他の音はなにも返ってこない。


「ん? いないのかな?」

(アキ様。もしかすると、畑などのお世話をされているのではないでしょうか?)

「ふむ。なら近くの畑にいるかもね」


 シルフの考えに頷きつつ、家の裏手側へと移動すれば、ザクザクと小気味良い音が聞こえてくる。

 その音に導かれるように顔を向ければ、少し痩せ型のお爺ちゃんが力強く鍬を地面に突き刺し、耕していた。


「あの人かな?」


 その呟きが聞こえたのか、お爺ちゃんがくるりとこちらへ振り返る。

 そしてそのまま鍬を肩に背負い、僕の方へと歩いてきた。

 ――隠居してると聞いていたけれど、歩いてくる姿勢も、さっきの鍬を振る姿勢も、すごく力強い……。


「ふむ。なんじゃ、君は?」

「初めまして。僕はアキといいます。少し調べていることがありまして。そこで、訓練所の兵士さんに聞いたところ、ジェルビンさんという方を紹介されまして……」

「ふむ。確かに儂がジェルビンじゃが……誰から聞いたのじゃ?」


 誰から……?

 兵士のおじさん……って名前なんだっけ?

 いや、そもそも聞いてない気がするぞ!?


「え、えーっと……名前を聞いてないんですが。訓練所の門の所に立たれている方です」

「……グランのやつじゃな。なるほど、なら続きは儂の家で話そう」

「あ、はい。ありがとうございます」


 僕の返事よりも先に、お爺ちゃん――もとい、ジェルビンさんは家の方へと歩いて行く。

 とりあえず遅れるわけにもいかないとその後を追い、ジェルビンさんが開けてくれた扉をくぐり抜けた。



「それでアキさんとやらは……調薬士じゃな?」

「え!? なんで分かったんですか!?」

「なんとなくの勘じゃよ。こうして隠居する前は、人前に立つことも多かったのでの。人を見る目はあるつもりじゃよ」


 案内されて椅子に座り、対面した直後だっただけに、勘と言われても信じる他ない。

 人を見る目……だからこうして家の中に招いてくれたのだろうか?


「それで、どの程度作れるんじゃ?」

「僕はまだまだです。作れるのは最下級と下級のポーション、その良品くらいです」


 一応他にも、軟膏とか作ったけど……。

 そうだ、軟膏も量産してみて、アルさん達とパーティーを組む時に見せてみよう。

 大丈夫そうだったらメンバーの方に使って貰ったりしてもいいし……それに、ボスの時は使えそうだしね。


「なんじゃ、それ以外はまだ作れぬのか?」

「はい。材料や方法が全然わからなくて……」

「ふむ、ちょっと待っておれ」


 僕の言葉に少し頷き、ジェルビンさんは家から出ていく。

 その行動に、シルフと目を合わせ首を傾げていると、ジェルビンさんは手に何かを持って帰ってきた。


「ほれ、この2つがポーション以外でよく見る一般的な薬じゃ」

「ちょっと失礼します……。片方は[興奮剤]。もう片方が……[解毒ポーション(微)]? こっちは初めて見るお薬ですね」


 [解毒ポーション(微):軽い毒を直せるポーション、ただし猛毒など強い毒に対しては効果がない。

 軽い解毒作用を持つポーション。]


「軽い毒? それに、猛毒って?」

「ふむ、そこからか。仕方ないのぅ」


 ジェルビンさんは軽く笑いながら、右手の人差し指を立てる。


「まず、毒というのは大きく3つに分けられるのじゃ。軽い毒、猛毒、そして特殊な毒じゃ」


 人差し指、次いで中指、最後に薬指。

 なるほど……大きく分けて3つ。


「まず軽い毒というのは、すぐに命に関わるものではない毒じゃ。めまいや頭痛、ふらつきなどから始まり、悪化すれば吐き気や発熱などが起きる。体力も少しずつ奪われていくのじゃが、動かず休むか、[解毒ポーション(微)]を使うのが一般的じゃな」

「ふむ……。おば、あーアルジェリアさんに教えてもらいましたが……[ポルの微毒薬]もそうなんですか?」

「そうじゃな。[ポルの微毒薬]は服用すると眠りを誘うものじゃが、毒としては軽い毒になるのぅ。量さえ間違わなければ、安全に使うことができるぞ」

「なるほど……」


 ゲーム的にいえば、体調が悪くなることで、じわじわとHPが減る。

 でも、休んでいれば治る毒が軽い毒ってことかな?


「次は猛毒じゃが……これはあまりかかることはない。ないが……かかると最悪、死に至る」


 死に至る――その言葉に、あの死んだときの感覚を思い出してしまう。

 暗く深い水の中にいるみたいに、少しの浮遊感を感じながらも落ちていく、あの感覚。


「――じゃが」


 ジェルビンさんの声で、びくりと身体が震え、指先に重さが戻る。

 ……大丈夫、大丈夫だ。


「猛毒に対処するべく、街には常に猛毒用のポーションは準備されておる」

「……猛毒は、なにから」

「そうじゃな……魔物も持っておるが、一番は毒薬じゃろう」

「――ッ!?」

「そう怖がることはない。普通に生活しておればそのような目に遭うことはないじゃろう。実際、かかるのは街の有力者や、危険な場所に行く冒険者が大半じゃ」


 つまり、命を狙われるような状況じゃなければ、かかることはない。

 でも、それは、つまり――

2019/03/04 改稿

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