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351. 採寸までの横道話

「なるほど、分かりやした。お嬢」


 言って僕からツルハシの図面を受け取ると、ヤカタさんは工房の中に僕を促した。

 その導きで一歩中に入った瞬間、もわっとした熱気が僕の顔を撫でる。

 あっつ……。


「じゃ、色々と採寸を、っとお嬢。すごい顔になってるぞ」

「え、あー。すみません、その、思ってたより暑くて」

「暑い? ここは涼しい方だと思うが……」

「えぇー……」


 どう考えても熱いと思うんだけど。

 数メートル程度しか離れてない炉の中で真っ赤な炎がゴウゴウいってるし、ちょっと離れた位置に目をやれば温度差が酷いからか陽炎みたいに歪んで見える。

 サウナの室内温度って80℃とか90℃とかあるらしいけど、どう考えてもそれより暑い。

 もうなんか暑いっていうよりも、肌がじりじりと焼かれてる感じに熱いし痛いって。


「……なら、場所を変えるか。取ってくるから、少し待っててくれ」

「え、いや、そこまでは」

「いや、万全の方がこちらもやりやすいからな」

「……? まあ、そういうことなら……」


 そう言い残してヤカタさんは工房から出て行き、残された僕は周りの邪魔になるわけにもいかず、隅の方でひっそりと置物になる。

 気配を消して~僕は置物~とか思いながらじっとしてた僕だけども、やはり特に効果はなかったようで、作業してる人も通り過ぎる人も、一度二度と僕の方に目を向けて“見なかったことにしよう”って素振りで目をそらしていく。

 ……うん、分かってたけども。


「アキさん、なにしてんスか?」

「何もしない、をしてる……かな? スミスさんは? 僕に何か用とか?」

「いや、用はないんスけど。周りから“お前訊いてこいよ”みたいな圧があったんで」

「そ、そっか」


 苦笑するスミスさんの肩越しに、“そういった当人”らしき人と目が合い……わざとらしく口笛を吹きだすのが見えた。

 気になるなら自分で訊きに来たらいいのに。


 そんなことを思っていれば「悪い、待たせた」と、横からヤカタさんの声が届く。

 しかし言ったヤカタさんも、スミスさんが僕の傍にいたのが気になったようで「何か話でもあったか?」と、首を傾げた。


「いや、アキさんみたいな人が作業場にいるのが珍しいって話をしてたところっス!」

「アァ? そんなこと気にする暇があるんなら、お前の作業、もっと増やしても大丈夫だな?」

「いっ!? いや、無理っス! すみません! 作業に戻るっス!」

「当たり前だ、アホ共! テメェら、今日のノルマ届かなかったらぶっ飛ばすぞ!」


「「「ハイ!」」」


 ヤカタさんの檄に焦ったような声で反応する職人さんたち。

 なんていうか……邪魔しちゃってすみません……。


「お嬢、うちのモンが悪いな。普段、奥まではあまり部外者が来ないんで、浮き足立ったみてぇだ」

「いえ、僕の方がお邪魔してるので。それでえっと、場所を移すんでしたよね?」

「ああ。付いてきてくれ」


 言って工房から出て行くヤカタさんの後を追って、僕も工房からそそくさと退散。

 暑いのもあるけど、気にしないように気にしてるって感じの視線とか雰囲気があってね……。


 そんな、後ろ髪を引かれるどころか、後ろから押されるような圧を感じながら部屋を出た僕は、工房のすぐ傍にあった部屋に呼ばれる。

 先導したヤカタさん曰く、素材を置いてる倉庫だそうで、見える範囲だけでも大量の素材が所狭しと置かれていた。

 でも、なんで同じ素材が色々小分けにされてるんだろう……?


「ああ、それは産地ごとに分けて、色々調べるためだな」

「産地?」

「どうも同じ素材でも微妙にクセというか、気質? みたいなもんが違う感じでな。温度だ叩き具合だに微妙な善し悪しがあるみたいだ」

「へぇ……」

「お嬢もそういった経験は無いか? 取ってきた場所でなんか加工に違いとかよ」

「いや、僕はまだそういったことは無い……はず」


 言いながら今までの調薬を思い出して見ても、たぶん無い気がする。

 というか、素材を採取する場所が大体決まってる?

 ……あー、うん、そうかもしれない。


「ま、もしお嬢の方でもなんか気付いたなら、レニーに伝えてやってくれ。調合関係はあいつが率先して調べてるからな」

「うん、分かった。僕の方でも気にしとくよ」

「ああ、頼む。……じゃあそろそろ採寸しても良いか?」

「……ごめん。お願いします」

コミックス1巻発売中!

手に取っていただけた方、ありがとうございます。

たくさんの人にご購入頂けているみたいで、とても嬉しかったです!

まだまだ続きますので、おたのしみに!

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