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350. 道具と刻印

「そんじゃひとまず、図面を起こしちまいましょうぜ。それさえありゃ、あとは鍛冶の領分でさあ」

「ですね」


 言って木山さんは、ささっと木の板にスケッチを起こしていく。

 ただそのスケッチに付随する情報は……"手に持てるちょうど良い太さ"とか、"片手で振るうのに無理のない長さ"とか書いてあるんだけども。


「あの、これって……?」

「ああ、長さとか太さってのは、俺らが口出すのが難しいんでい。規格は今進めてるんだが、まだハッキリしてねぇんで、今のところはあっちで決める方が間違いないですぜ」

「な、なるほど」


 きっと、僕らが調合を匂いや感触、色や温度変化といったもので判断するのと同じように、鍛冶士には鍛冶士の判断方法があって、木山さんはそこに口を出さないってことなんだろう。

 それは一見適当なように見えるけれど、実際はそうじゃない。

 信じてるから、任せられるんだ。


 なんて考えているうちにどうやら描き終わったらしく、木山さんは「大まかにはこんなとこでいいかと思いますぜい」と、鉛筆代わりに使っていた木片をテーブルに置く。

 そこで図面を見ようと僕がのぞき込んだところで……「そうだ、アキさん。それに刻印を入れてみませんか?」と、提案が上がった。


「刻印、ですか? なんです? それ」

「道具に魔力を通すための回路みたいなもんですぜ。さっき道中で言ったコンロなんかも、中に刻印が刻んであるんでい」

「なるほど? でも、ツルハシから火が出ても……」

「いやいや、別に火にこだわらんくてもいいんでい! 嘴の先を硬くするとか、折れにくくするとか、そういうやつですぜ」

「ああ、そういう……って、そういうのも出来るんですか!?」


 てっきり火とか水とかみたいに、現象そのものを起こすものだとばかり。

 あ、でも、それなら……。


「[風化薬]の蓋も、魔道具みたいな刻印を入れてる……というか、むしろ蓋が魔道具?」

「ご明察、でい! あいにく、あの蓋の刻印ほど細かく入れられる職人は、今うちのギルドにはいないんですが、目標の一つとして設定してますぜ」


 木山さんの話を聞きながらインベントリを操作して、あの[風化薬]を取り出す。

 以前トーマ君と一緒にジェルビンさんの家に行って、いろいろあった末にもらったものだけど、なんだかんだで使ってないんだよね。


 ……あれ?

 でも、たしかトーマ君はプレイヤー以外の冒険者から買い取ったって言ってたような……?


「もしかして、[風化薬]って、この街で買えたり?」

「ええ、買えますぜ。うちじゃ扱ってねぇですが、NPCの道具屋には少量置いてるんで、買おうと思えば買えるかと。まあ、ただ……値段は少々張りますが……」

「そ、そっか」


 生産系プレイヤーが多く所属している木山さんのギルドでもやれる人がいないってことだし、あの蓋だけでもかなりの価値があるんだろう。

 そのうえ、爆薬の中身は魔力を帯びた精霊の泉の水。

 ……どう考えても高級品でしかない。


「まあ、ソレとは比べもんになりませんが、うちのやつらでも多少の刻印は打てるんで、ここは一発やってみてもらえれば」

「……なるほど。じゃあお願いしようかな」

「おう!」


 嬉しそうに頷いて、入れてもらう刻印の内容を書き込んでいく木山さんに、僕は少し笑う。

 木山さんは、ギルドメンバー達に少しでも経験を積ませたいみたいで、僕に依頼というかお願いって形でその場を作りたかったんだろう。

 もしかすると、ツルハシを作るって時点でそこまで考えてたのかもしれないけど。


「よし、それじゃこれを鍛冶場の受付に持って行ってもらえば、あとはやってくれるはずですぜ」

「あ、ありがとうございます」

「いえいえ、このくらいどうってことないですぜ! まあ、これからもうちのギルドをひいきにしていただければ」


 言いながらニッと笑って見せる木山さんに、僕も笑いかえし図面を受け取る。

 広げて見てみれば、嘴が一つしかないツルハシの絵と、ぜんぜん具体的じゃない注釈の数々。

 ……ずっと見てたから分かってたけど、ほんとにこれで大丈夫なんだろうか。

 

昨年10月にコミックス1巻発売になりました!

手に取っていただけた方、ありがとうございます。

まだまだ続きますので、おたのしみに!

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