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349. つるはし

「お、お邪魔します」


 木と鉄で出来た大きな扉をくぐりながら、僕は小さく頭を下げる。

 そんな僕を見て、「そんな緊張しなくても大丈夫ですぜい!」と、誘ってくれた木山さんが笑い、さらに奥へと僕を誘った。


「下のお店が並んでいるエリアには来たことありますけど、上の方はやっぱり緊張します」

「そういや聞きやしたが、ランタンを買ってもらったみたいで。どうもレニーが押し売ったとかで、申し訳ねえです」

「ああー……まあ、それで助かりましたので」


 予備にと買ったランタンが無ければ、暗闇の中帰ることになってたわけだし、レニーさんには感謝こそすれど、恨んだりは……って感じ。

 それにあのランタン、まだ効果時間を使い切ってないみたいだから、もし暗いところとかに行かなきゃいけなくなったら、使えるかもだしね。


「それで木山さん。僕に見せたいものって?」

「ええ、それなんですが……ちょうど到着したんで、話は中で」

「あ、はい」


 言われるがままに、僕は部屋の中へと身をすべらせ、目に入ってきた仰々しいほどに"応接室"という雰囲気の部屋に一瞬たじろぐ。

 いや、玄関から考えれば2階層ほど上に上がってきたし、よくよく見れば部屋の入口扉はしっかりとした両開きだし……完全に接待用の部屋って感じだった。


「適当に座ってくだせぇ。それでっと、どこに仕舞ったか……」


 そう言って応接室(仮)の奥にあった扉を開いて中へと入っていた木山さんを見つつ、僕はちょっと高級そうな黒ソファへと腰を下ろす。


 ……おお、見た目は革なのに、ふわふわだ。


 ゆっくりと腰を下ろした僕を、ふんわりと受け止めるように沈むソファ。

 いわゆる、人をダメにするソファって感じ?

 見た目は完全に硬そうな革なのに……不思議だ。


(アキ様、アキ様。このお部屋、すごい綺麗ですね)

(だね。見えてる部分全部にすごい手が掛かってるっぽいし)

(やはり、すべてこちらの職人さんの手作りなのでしょうか……?)

(そうじゃない? 木山さんも木工関係のスキル持ってたはずだし。ココも、そういうの得意な人が集まってるギルドだしね)


 言いつつも、今度はその辺りを考えながら、もう一度調度品を見てみる。

 そうすると、さっきまでは気付かなかった細かい部分の手の入れように、「ほう……」と思わず感嘆の息が漏れた。

 

 角の処理とか、キャビネットの棚の大きさ一つ一つ。

 “雰囲気”として捉えていたものが、どれもしっかり計算されているように配置されていて、調度品一つだけじゃなく、部屋全体で見て、一つの作品になっているみたいだ。


「お待たせしました! やっと見つけましたぜい! コイツを見てもらいたかったんですが……その前に。良い部屋でしょう、この部屋? 全部うちの職人達の手作りなんでい!」

「あ、はい。すごいですね……イメージや使用材料が統一されてるわけでもないのに、不思議と一体感のある雰囲気になってて」

「ありがとうございます。確かに材や処理は違いますが、調度品それぞれのサイズや、形状などから受ける印象なんかを調整して、この部屋に“馴染む”ようにしてあるんでさあ」

「つまり、全て計算されているってことですか?」


 僕の問いに無言で頷いた木山さんは、どこか誇らしげで、見ているだけで“負けてられないな”という気持ちにさせてくれる。

 ……本当に、負けてられないな。


「よし! ……それで、木山さん。本題は?」

「ええ、こちらを見ていただきたく。試作品ではありますが、アキさんの希望の手助けが出来るのではないかと」


 そう言って木山さんがテーブルに置いたのは、少し小ぶりなツルハシ。

 僕が持っているツルハシは”両つる”という、持ち手の木から左右に同じ形状の嘴がついているもので、さらに両手持ちサイズなこともあってなかなかに大きい。

 しかし木山さんが置いたツルハシはその全てが僕のものと違い……受ける印象がまるで別物だった。

 片方にしかついていない嘴や、短い持ち手などなど……。


「こいつはうちの採掘者がサブで使ってる片手用小型ピッケルってやつで、主な用途は細かい部分の掘り出しや、狭い場所での採掘なんかを主にやってるやつでい。さすがにこいつをメインで使うって事は難しいが、こんな形でもう少し大きい物を作るってのは可能だと思いますぜ」

「なるほど……」

「まあ、嘴が一つしかないんで、嘴の手入れは頻繁に必要になると思いますが……」

「あー、それはそうだよね。でもこの形のツルハシはちょっと試してみたいかも」

昨年10月にコミックス1巻発売になりました!

手に取っていただけた方、ありがとうございます。

まだまだ続きますので、おたのしみに!


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