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32. もう一度、森へ

「さてと、そろそろ行かないと」


 今日はアルさんと森に行く約束をした当日。

 夕方よりも早くにログインした僕は、相も変わらずおばちゃんのお店――その奥の作業場で本を読んで時間を潰していた。


「待ち合わせ場所は、街の南門付近……」


 半透明になったシルフと隣り合い、のんびりと道を進んでいく。

 今日の服装は街の外に向かうこともあり、おばちゃんから貰ったワンピースではなく、ゲーム開始時に着ていた初期装備。

 外での採取にある程度慣れてきたら、装備も整えないとなぁ……。


(アキ様)

(ん? なに?)

(私、今日はアキ様からも姿を消しておきますので。アル様とのパーティー、頑張ってください)

(え!? いてくれないの!?)

(その……近くにはいますので……)


 そう言ってシルフは曖昧に笑顔を見せる。

 いつもと違う、まるで作ったような笑顔に……僕はなんとなくシルフの言いたいことが分かった気がした。

 ――きっと彼女は、パーティーでの冒険を体験して欲しいんだと思う。


 今までは一緒に外で戦ったり話したりすることはあったけれど、誰ともパーティーを組んではいなかった。

 トーマ君も、兵士のおじさんも。

 だから余計に……なんだろう。


(……わかった)

(アキ様、その……)

(ううん、大丈夫。シルフの言いたいことはわかってるから。ありがとう)


 無言の僕に笑顔も崩れ、おろおろと困り顔を見せるシルフに、きちんとお礼を伝える。

 それで気持ちが少し持ち直したのか、彼女は最後にはにかむような笑みを見せて景色に溶けていった。

 どうやら考えていた間に待ち合わせ場所についていたみたいだ。


 街の南門付近は、いつも人が多い。

 この街で一番大きな出入り口であり草原へは一番近いことも相まって、この街の住民、プレイヤー問わず人が集まりやすいらしい。

 道の両端に沿うように露店が出ているのも、余計に拍車をかけているのかもしれない。

 いや、露店があるから人が来るのかな……?


「アルさんはーっと……」


 邪魔にならないように壁際に寄って、うんと頑張って背伸びをして見てみるが、どうも見当たらない?

 でも、時間は合ってるはずだし……。

 声を上げようにも、周辺ではパーティーメンバーの募集を叫んでたり、行き交う人の声やら武器防具の擦れ合う音やら、馬の声やら……とにかく騒がしくて、声を上げても意味がなさそうだ。


「んー、しかし見当たらない」


 けど、見える範囲がほとんど美男美女なのは……なんかすごい。

 キャラメイクの時に多少顔を弄れるから、そうなるんだろうけど……すごい。

 ただ、アルさんとかトーマ君とかシルフの方が格好いいし、可愛いかな?

 ――友達贔屓なだけかもしれないけど。


「うん、アルさんの方が格好いいな。弄ってるとしても」

「……いきなり何を言ってるんだ」

「わひゃ!?」


 ぼそりと呟いた僕の死角から、聞き慣れた声が落ちてくる。

 どうやら見ていた方向と真逆にいたみたいだけど、こんなに近づかれていて気づけないとは……。


「あー、その……」

「いや、言わなくていい。聞こえてたからな……」

「ああー。そのー……」


 どこからとか、どれだけとか、聞きたいような聞きたくないような質問が浮かんでは消えていく。

 でも、不思議と知りたくなることもあって、思わずアルさんの顔をチラチラと見てしまう。


「……はぁ。弄ってはいない。そもそもそんなものに興味はない」


 放り投げるように落とされた言葉に、思わず顔をあげる。

 そうして見えた彼の顔は、困ったような……でも、どこか憮然としているような、そんな表情を貼り付けていた。


「あ、あはは……その。えーっと、アルさん、リアルでも格好いいんですね!」


 素直な感想にちょっとした嫉妬を混ぜつつ、アルさんをじろりと睨み返す。

 その行為がどこか面白かったのか、アルさんは半ば笑いつつ僕の頭に手を置いて――


 「お気に召しましたか? お嬢さん?」と一瞬で顔を整え、僕の目をまっすぐ見返してきた。


「うぐっ……!」


 これが、イケメンの……破壊力!

 同性のはずなのに、なんだすごい恥ずかしいぞ!

 でも、それを悟られたくもなくて「なに言ってるんですか! 時間なくなるので行きますよ!」と彼の手を頭から払い、背を向けた。


 結局、僕の顔から熱が引いたのは、僕らが南門を抜ける直前のことだった。

2019/02/24 改稿

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