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27. side-シルフ-

今回の話はシルフ視点となります。

次回はアキ視点に戻ります。

 気付いたときにはそこにいた。

 ふわふわと浮かぶことも、木々をすり抜けてしまうことも、知らないはずなのに知っている。

 風を手足のように使えることも、そして――誰も私に気付いてくれないことも。


「楽しそうな声、悲しそうな声……」


 街を行き交う人々の声からは、いろんな感情が感じられた。

 誰かと歩く人だけではなく、ひとりで歩く人も……心の中には誰か想う人がいる。

 分かってしまう……ざわざわと動く風が、私に教えてくれるから。


「あの人は友達と遊びに。こっちの人はお母さんと喧嘩しちゃったのかな?」


 知ろうと思わなくても、なんとなくわかってしまう。

 温かい、冷たい、弱い、強い――色んな感情が、風に乗って教えてくれる。


「でも、私には誰もいない……」


 ひとりは、寂しいな――。



 その風を感じたのは、私に意識が芽生えてから数ヶ月か、数年かが経ったある日のこと。

 今まで感じていた風と少し違う――温かくて透き通った風。

 きっと何も持っていない、私に近い人。


 ひとりで悩んでいたり、呟いたりしている姿を見ていれば、なんだか面白くなってくる。

 思わず笑い声が漏れてしまうのも初めてのことで、そんな私の方を急に振り返ってくるのも初めてのことで――


「あれ? もしかして私の声が聞こえて……?」なんて、綺麗な目に見つめられて、思いが口から漏れてしまう。


「誰かいるの?」


 薄紅の髪をした少女が、なぜか誰かがいると確信しているみたいに声を発する。

 気のせいじゃなかった……間違いなく聞こえてる!

 そのことに驚きと嬉しさが混ざり合って、姿を見せてみたくなった。


「ここではダメ、場所を変えてお会いしましょう」


 言いながらも、纏う風に溢れる喜びが隠せない。

 ひとりじゃなかった……私に気付いてくれる人がいた。

 逃したくない、きっとこの人を逃したら――



「アキ、さま……」


 彼と繋がっている、その証が薄くなっていて、今にも切れてしまいそうで……視界がにじむ。

 人は悲しくなると思わず涙が出るらしい。

 それは知っているけれど、こんな想いになるのなら、いっそ知りたくなかった。


 ――あの人と離れたくない、一緒にいたい。


「……見つけた」


 響く音、ずっと待っていた声。


「ッ! アキ……さま……」


 顔をあげれば、数歩先にあの人の姿。

 息を切らせながらも、いつもの柔らかい微笑みで。


 それを見た瞬間、私の中で何かが弾けた。

 風が舞う、身体が……心が走る。

 大好きなあの人に手を伸ばす。


「アキ様……アキ様!」


 支えきれず倒れ込んだアキ様に、しがみつくように身体を預ける。

 伝わる温もりも、少し頼りない身体も、全部確かめるように強く抱きしめた。


「し、シルフ! 落ち着いて……落ち着いて!」


 私が落ち着くよう、アキ様は優しく抱きしめてくれる。

 ゆっくりと、まるで大切なものを扱うみたいに、優しく。

 それが嬉しくて、失う怖さがまた胸を締め付けてくる。


「目の前で消えて……パスも薄くて……っ!」

「うん、うん」

「このまま消えてしまうんじゃないかって、またひとりになるんだって……」


 抱きしめたまま、身体に顔を押し当てたまま、声を絞り出す。


「嫌なんです……! こんなのは、もう……」


 想像するだけで、涙が溢れてくる。

 そんな私を安心させるように叩かれる背中が、優しく撫でられる頭が……不思議と熱を帯びて。


「……ごめん」


 違う、謝って欲しいわけじゃない。

 アキ様が悪いわけじゃない、だから……。


「……アキ様」

「ん? なに?」

「もう、ひとりにしないで……おいていかないで、ください……」


 伝わるだろうか?

 届いて、くれるだろうか?


「頑張るよ。だからシルフも、僕をひとりにしないでね」


 大好きな人のその言葉に、顔をあげれば、目に飛び込んでくる優しい微笑み。

 嬉しかった、私だけじゃなかった。


「はい。アキ様……」


 泣いていた顔で、むりやりに笑顔を作る。

 私は今、笑えているのだろうか?

 そんな困ったような顔じゃ、分からないですよ。


 アキ様。


2019/02/19 改稿

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