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266. 魔法の暴走

「あそこで時間切れとはのぅ……」

「あはは……お疲れ様」


 お互いに全力を出す――といわんばかりの空気は、リュンさんが踏み出したと同時に終わりを告げた。

 彼女の言うとおり、決闘時間の終了という……双方にとってもモヤモヤとする形での結末で。


「しかしトーマのあの動きには驚かされたぞ。いつの間にあんな技を」

「代表戦の後でシンシにな。あいつのは攻防一体やけど、俺のは移動手段って感じやな」


 なんでもトーマ君のスキル<疾駆>を<操糸術>と合わせたことで、今は<立体機動>というスキルになっているらしい。

 まさしく、上下左右、前後、斜めにと電光石火の立体機動だそうだ。

 ただ、まだ使いこなせてはいないらしく、基本的には1本の糸で直線的に動くのが限度だとか。


「しっかし、リュンがアルを止めれへんとは」

「なんじゃ、お主こそ水使いをフリーにしおったくせに」

「あん?」

「なんじゃ?」


 睨み合うように圧を増していく2人。

 このままでは喧嘩になってしまう、と止めに入ろうとして――


(こういうときは、何をすれば……?)


 と、手を虚空に伸ばしたまま、僕は言葉を失った。

 しかし、そんな僕の後ろから低くも聞き取りやすい声が彼らへと通り抜けて。


「――リュンさんの攻めは苛烈で、全力で防御に徹するしかなかったな」

「ふん。全て防ぎおったやつが何を」

「防いだ、ではないな。防ぐ他に、何もできなかった、だ」


 防いだという意味は同じだけれど、その言い直しはまるで意味が違う。

 アルさんでも防ぐ以外なにもできなかった――そう言っているんだ。


「すごいな……みんな」

「アキ、違う」

「ん? 何が?」


 僕とはまるでレベルが違う……そう思って呟いた言葉に、すぐ否定が入る。

 なんだろう、この間みたいに僕も凄いっていう感じかな?

 でも、それは喜べないかな……。


 今、僕は何も……出来てないんだから。


 そんな風に心を閉じて、僕はラミナさんへと目を向ける。

 そんな僕の目がいつもと違うと感じ取ったのか、彼女は少し息を飲んで……


「ラミナ達は、これしかできないから」

「――これしかできない?」

「そう。今、これしかできないから」


 彼女は僕をまっすぐ見つめ、鞘から剣を抜く。

 これしかできない、か……。


「アキは違う。できることがある」

「できるのかな。僕に」

「できる。ラミナは信じてる」


 ラミナさんの断言に、少しだけ笑ってしまう。

 信じてる、だからできる……か。


「仕方ない。そう言われたら、やるしかないね」

「ん」


 相変わらずの無表情で頷いた彼女の頭を、ぐしゃぐしゃと撫でる。

 背の低くなったこの身体だと身長に差がないから少し不格好だけど……。

 ラミナさんに嫌がられることなく数秒ほど撫でてから、僕は目的の人へと話しかけた。


「カナエさん。少しいいですか」

「はい、どうかしましたか?」


 僕らの方へと向いたカナエさんは、ラミナさんの頭がぐしゃぐしゃになっていることに驚く。

 けれどラミナさんが小さく「気にしないで」と言ったこともあって、改めて僕へと向き直った。


 「相談が」と話を切り出し、今の現状とマナの飽和状態に詰まっていることを伝えていく。

 話にしてしまえば数分程度で話せてしまうことだけれど、内容が少し特殊だったからかカナエさんも少し戸惑いを見せ、「ちょっと考えをまとめます」と手を顔の前に広げた。


「ひとまず現状は分かりました。オリオンさんが仰ってることも納得できます」

「ふむ……」

「マナの飽和状態に関しては少し想像が難しいのですが、近い状況は魔法の暴走なのかもしれません」

「魔法の暴走?」

「はい。魔法とは、魔力と詠唱、そして魔法を起こすためのマナが必要となります。言ってしまえば、魔力が意思、詠唱は言葉、マナが実行者といった具合ですね。マナに伝えるために、私たちの魔力(意思)詠唱(言葉)に乗せるわけです」


 ふむ、つまり魔力を直接マナに与えても魔法は発動しないし、詠唱とマナだけあっても意味がない。

 そして、この島の最初の頃のようにマナが少ないと魔法を実行するための力が足りず、威力が下がる……ということかな。


 シルフが詠唱もなしに風を起こせるのは、マナと魔力の両方を操れるからだろう。

 わかりやすく言えば、シルフ自体が詠唱の代わり、ということ。


「それで、マナが多すぎると……」

「基本的には魔力量とマナの数で魔法の威力は決まるため、魔力量を制御できればマナが多くても問題はないのですが、魔力の制御が苦手、もしくは制御できない状態の時は、マナが要求するだけの魔力を取られてしまうことがあります。そうなってしまうと、魔法は術者の手を離れ、暴走してしまいます」

「暴走、か。つまり今回みたいになるってこと?」

「今回は少し特殊ですが、私たちプレイヤーが暴走させると、魔法が暴発したり予想を超える規模の魔法になったりですね」


 こうやって聞いて見ると、結果は違うけれど、暴走や暴発なら近いのかも知れない。

 なにがどうなって世界樹が魔物に変化したのかはわからないけれど、ドライアドの魔力を受けたマナが世界樹を魔物に変えた、として見ればおかしくはない……のかな?

 眷属って言ってたハンナさんも、木で出来た球体関節人形だったわけだし、その魔法が暴走した、みたいな。


「それで、ここからが本題なんだけど……カナエさん、なにかそういったお薬とか毒とかって訊いたことないかな? 魔力とかマナを抑えるような、そんな感じの」

「残念ながら……。ただ、魔力を放出出来なくなるといった毒ならばあってもおかしくないとは思います。しかしそれが精霊に効果があるのかどうか。そもそも、私たちと精霊とで魔力とマナの考え方が変わる可能性もありますので……」


 悩むような表情を見せるカナエさんに、「そうですか……」と返すことしか出来ない。

 カナエさんでも知らないってなると、多分知ってる人はいなさそうだしなぁ……。

 プレイヤーの中で、魔法関係だったら一番詳しそうな人だし。


「すみません。お力になれなくて」

「いえ、充分ですよ。魔力とかマナとかの事、よくわかりましたし」


 気落ちしたように肩を落とすカナエさん。

 でも、僕としてもそれ以上のフォローは出来なくて、とりあえず「ありがとうございました」と、その場を去ることしかできなかった。

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