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245. 暗雲を切り裂く一条の雷光

 ――<喚起>スキルが発動します。


 謎のアラーム音と共に、そんな感覚が僕の脳内に滑り込んできた。



「お誕生日おめでとう。(ふう)

「もう14歳になるのね。おめでとう、楓」

「お父様、お母様。ありがとうございますー!」

「それじゃあ火を付けるね……はい、どうぞ」


 目を閉じているのか、開いているのかわからないけれど、視界を覆う真っ暗な闇の中で、楽しそうな親子の声が響いた。

 聞こえた言葉から考えるに、女の子の誕生日……だろうか?


「明日はみんなお休みだから、楓が行きたがっていた場所に行こう」

「わぁ、楽しみ! お父様、ありがとうございます」

「楓の誕生日に合わせて行こうって、お父さんずっとお仕事頑張ってくれたの。よかったわね」

「うん!」



「可哀想に……あの子だけ助かったって」

「親は両方、ほとんど即死だったってねぇ……。誕生祝いのお出かけだったらしいけど……」


 見えなくても分かるくらいに……周囲の雰囲気が急に変わった。

 それになんだか鼻につく匂い。

 何かが焼ける匂い……?


「でも、あの子も助かったって言ったって意識は戻ってないんだって? 今もそこにいるけど、ほとんど死んでるようなものじゃないか」

「自分で動けもしない、意思疎通も取れないような状態で生きてるって言えるのかねぇ……。いったい誰が引き取る事になるんだか。わたしゃ死んでもごめんだね」


 誰のことを言っているのか、僕には分からないはずなのに、不思議と確信にも似た考えが頭に浮かぶ。

 これ……きっと、さっきの女の子のことだ。

 誕生日のお祝いに家族で出かけて……そこでなにかの事故に巻き込まれた?

 そうだとしたら、それは……。



「はじめまして、楓ちゃん。僕は君を引き取ることになった、槍剣(やつるぎ)です。こう見えてもお医者さんでね、君を治してあげたいと思っているんだ。だから、よろしくね」


 焼けるような匂いが消えて優しい声が響いた。

 男性の声?

 お医者さんってことは、やっぱりこの子が……。


 そう思い至った僕の脳内で、時間切れを知らせるように、またしてもアラームが鳴り響く。

 それと同時に、僕の意識も溶けていくように、薄れていった。



 ――<喚起>スキルが<(そら)魔法>スキルの制限解除に成功しました。使用可能時間は、30秒です。


 体に熱が戻る。

 その熱さを吐き出すように開いた口から、自分の意思とは無関係に言葉が漏れ出した。


「開け、風穴(ふうけつ)――貫け、水針(すいしん)


 僕自身も知らない詠唱。


「我、望むは裁きの雷槌(いかづち)。天をも恐れぬ愚か者に、今ひとたびの極光を」


 けれど僕の口は、まるで全てを知っているみたいに音を紡いだ。


(ほとばし)れ――〔暗雲を切り裂く一条(ジャッジメント・)の雷光(レイ)〕」


 視界の中で風が渦を巻き、ヤドカリを中心に嵐を形成する。

 そして、魔法の詠唱が終わると同時に、僕の視界は白に染まった。


 轟音を響かせながら、一条の雷がヤドカリを貫く。

 貝の頂点から地面へと、楔を打ち込むかのように。


 ――<喚起>スキルが発動限界時間を超過したため、停止しました。


 不思議な音が聞こえて、謎のメッセージが流れたような……そんな感覚。

 実際には何も無かったのに、僕の中だけで何かがあった(・・・・・・)ような奇妙な感覚。

 それを認識した後、次第に体中の熱が引いていき、目の前で起きていた嵐も、ゆっくりとその勢力を弱めていった。


 でもその代わりに……。


気持ち悪い(ぎぼぢわるい)……」


 ぐらぐらと頭が揺れているみたいな感じで……耳の奥からは低い音がぐわぐわと……。

 ああ、これが……魔力の使いすぎの……。


「あ、アキさん!? 大丈夫ですか!?」

「う、うえぇぇ……」


 さすがにそこまではリアルじゃないみたいで、吐き気があっても吐くことはないみたいだ。

 そんなことだけは、なぜか冷静に考えることが出来た。

 いや、だからどうしたっていう話なんだけども。


「頭が、ぐらぐらして……耳が……」

「分かります。分かりますから、まずはゆっくり休みましょう。さすがに地面は土なので横になることは出来ませんが、座って休んでいればそのうち楽になりますから」

「すみません……」


 隣で様子を見ていてくれたらしいカナエさんに支えられつつ、ゆっくりと地面に腰を落とす。

 そうして休んでいると少しだけ楽になってきて、重かった頭も、だんだん軽く……ふわふわと――。

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