2. 変化
2017年12月13日変更。
まだ使われていない、新品の剣は、鏡のように僕の姿を映してくれた。
薄紅の髪を背中まで伸ばした、ちょっと発育が足りないけれど、とても可愛らしい女の子の姿を。
「って、ええええぇぇぇぇ!?」
長くまっすぐな薄紅の髪、華奢な肩、細い腕に白い肌……。
現実の僕の姿とは、似ても似つかない美少女。
ただ、ちょっと胸のあたりは寂しい気がするけど……。
「いや、ちょっと待って……。え……?」
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫ですけど、大丈夫じゃないというか、あの……、え?」
男性の声に反応するように、男性の方を向けば妙に背が高く見える。
この人、すごい背が高い……?
いや、これは僕が縮んだのかもしれない……。
本来の姿でも、160cm足らずぐらいの身長しかないけれど、視界はこんなに低くなかった気がする。
目の前に手を翳してみれば、見覚えのない白く細い指。
その指で顔に当たる髪を手に取ってみれば、柔らかい髪が指の間から抜けていった。
その感触に感動しつつ、男性に背を向けて、恐る恐る手を胸に当ててみる。
「うわぁ……。ある……」
リアル過ぎるからか、触った時の柔らかい感触も、触られたという今までにない感触も、よくわかってしまう。
もしかしなくても、もう1ヵ所も、本来の姿とは変わってしまっているのだろう……。
なんでこんなことになっちゃったんだ……?
「少しは落ち着いたか?」
「ぁ、はい……。ちょっと納得がいかない部分はありますが、少しは……」
返事を返しながら向き直れば、少し困った顔で笑う男性が見えた。
「ひとまず落ち着いたならよかった。そうだ、俺の名前、まだ伝えてなかったよな? 俺はアストラル、アルって呼んでくれればいい」
そう言って、笑いながら手を差し出してくる。
落ち着いて男性……アルさんを見てみれば、身長も高くて色黒だけど、爽やかなイケメンって感じだ。
黒い髪の毛は、結構長いみたいで、首の後ろで括ってあるみたい。
「僕は、アキと言います。こちらこそ、よろしくお願いします」
とりあえずそう言って、アルさんの手を握り返す。
手の大きさも全然違う。
僕の手が小さくなってしまったのもあるんだろうけど、まるで大人と子供みたいな違いに、ちょっと笑ってしまった。
「今日はちょっと一人で色々回ってみようと思ってるが、もしよかったら、今度一緒にパーティーでも組んでみよう。とりあえず、今日のところはフレンドだけいいか?」
「ぁ、はい。大丈夫です」
その言葉と一緒に、飛んできたフレンド申請を承認する。
僕としても、今スキルを何も持っていないので、パーティーでの行動は厳しかったし……。
「あぁ、あと、何か不都合が起きてるなら、メニューからGMへの連絡ができるだろうから、やってみるといいんじゃないか?」
「そうなんですね……。後でやってみます」
僕の返事に満足したのか、アルさんは少し笑って背を向ける。
歩いていくたびに、背中に下ろされたアルさんの黒髪が揺れるのが、少し面白かった。
「やっぱり戦闘スキル一つくらい取っておいた方が良かったかなぁ……」
アルさんが武器を持っていたこともあり、僕も何か持ってるかも、と思ってインベントリを確認したんだけど……。
無慈悲にも、そこには、[初心者ポーション]が5個と、所持金が1,000sだけが表示されていた。
多分、初期スキル選択の時にスキルを取っていれば、対応武器とかが貰えたりしたのかも……?
「とりあえず嘆いてても仕方ないし……。まずは、さっきアルさんが教えてくれた、GMへの連絡をしてみようかな……」
アバター作成のときに、アナウンスの声が言ってた通り、本来このゲームでは、性別の変更はできない。
もちろん、いろんな事情で別の性別にすることは可能なんだけど、それをするためにはいろんな手順を踏まなきゃいけなかったはず。
ログイン前に、ちらっと見たシステム情報には、たしかそんなことが書いてあったはずだ。
「えーっと、メニューを開いて……」
言葉に出しながら、視界に現れたメニューから、GMコールのボタンを押す。
すると、電話のコール音のような音が脳内に響いた。
『大変お待たせいたしました。<Life Game>のゲームマスター、ツェンです』
数秒ほど待って聞こえた声は、若い男性のような声。
若く聞こえる割には、落ち着いた雰囲気も感じる……。
「あの、ログインしたら、アバター作成で作ったアバターと、違う姿になってたんですが……」
本当は、性別が変わってるって言いたかったけど、周りに人が沢山いる状態で、それを口に出すのは危ない気がしたんだ。
以前、学校でこの話題を話してた人達が、性別が変えれないのが嫌って言ってたの聞いたし……。
まぁ、それを言ってたのは女の子だったけど……。
『なるほど……。ログイン時のデータをお調べいたします。少々お待ち下さい』
「すみません……。お願いします」
話しながら広場の端の方に移動して、置いてあったベンチに座る。
ログインした辺りを見てみれば、次々に人が現れては、驚いたり、呆けたり……。
僕もログインした時は、あんな感じだったのかなぁ……。
『大変お待たせいたしました』
「あ、はい」
『結論から申し上げますと、ゲーム名、アキ様のアバター作成、およびログイン転送に関するバグは確認できませんでした』
「えぇ!?」
『あくまでデータ上での確認となりますので、アキ様の使用されておりますVR機器や、ネットワーク上のトラブルが関係している可能性が高いかと思われます。そのため、アバターの再設定をご希望される場合は、弊社公式サイトのサポートから問題などのご指摘を頂き、VR機器を郵送していただくなどの方法になるかと思います』
「ちなみに、それってどれくらいかかりますか……?」
『そう、ですね……。明確にはお伝え出来ませんが、同様のお問い合わせが何件か、またそれ以外のお問い合わせも入っておりますので……、少なくともお返事に数日から1週間ほどは……』
「なるほど……。わかりました、わざわざありがとうございます」
『こちらの方こそ、アキ様にご迷惑をおかけし、申し訳ございません。また何かございましたら、お気軽にお問合せください』
「はい、ありがとうございます!」
『それでは、こちらで失礼させていただきます』
ツェンさんのその言葉の後、僕の視界からGMコールのウィンドウが消える。
んー……、サイトのサポートかぁ……。
また調べてみて、どうするか考えないと……。
「でも、折角だし街でも見て回ろっ!」
もしサポートに送るってことになったら、見て回るのが先になっちゃうかもだし。
そう思って、僕は広場から伸びる大通りへと足を向けた。
「思ってたより、時間かかった……」
街をぐるりと見て回って、ようやく最初の場所に戻ってこれた……。
何度か足を止めてお店の中を見てたりしたけど、ずっと歩き続ければ2時間ほどで回れるくらいの大きさっぽいかな?
「街の北側に訓練所があったから、僕みたいにスキルを持ってない人でも、練習してスキルを習得したりは出来るっぽいし……」
もし僕が街の外で戦うことになるなら、訓練所で戦闘スキルか魔法スキルを覚える必要がある。
そう思って、少し覗いてみんだけど……、武器も魔法もこれって思うものがなかったんだよね……。
ふふ……。
さっきも座ったベンチに腰かけて、スキルについて少し考えていると、近くから笑い声が聞こえた気がした。
顔を上げてみても、後ろを振り返ってみても、その声の主は見つからない。
あれ? もしかして私の声が聞こえて……?
気のせいか、と思った矢先、またしても声が聞こえた。
「誰かいるの?」
姿は見えないけれど、不思議とこの声は逃がしてはいけないような、そんな奇妙な感覚があった。
ふふ……。ここではダメ、場所を変えてお会いしましょう……。
姿は見えないけれど、確かに何かがいる。
なんとなく、その存在が移動した場所がわかる気がして、僕は近くの路地へと足を動かした。
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名前:アキ
性別:女
武器:なし ←NEW!!
防具:ホワイトリボン ←NEW!!
冒険者の服 ←NEW!!
冒険者のパンツ ←NEW!!
冒険者の靴 ←NEW!!