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192. まだ若い頃に

「ぜぇ……はぁ……。次は、ないぞ……」

「わ、わかった……わかったから……」


 僕の肩を掴んで、前後に揺らしながら怒り続けていたリュンさんが、ようやく怒りを抑えてくれた。

 もう臭さがわからないくらいに、僕に臭いが移ってる……。

 うぇぇ……。


「して、お主ら。ここで何をしておる? 予定では、もうすでに拠点に着いておるはずじゃろう?」

「あぁ、そうか。リュンさん達は2人が待ってること知ってたんだよね。道中色々あってね、足止めが多くて……」

「ふむ……。そういえば森の中で何やら争っておる奴らがおったのう……」

「あ、会った? シンシさんが僕らを攻撃してきたんだけど、忍者さん達が逃がしてくれて」


 そういえば、あのリーダーの人はたどり着けたんだろうか?

 僕らと会った場所からはそんなに離れてないはずだけど……。


「ふむ……詳しくは知らんが……」

「あれ? でもそこを抜けてきたんだよね?」

「うむ、そのせいでこうなっておる」


 その言葉と一緒に、僕を睨みつけてくる。

 んー……そこでアレを使ったってことかなぁ……。


「でも、なんで?」

「フェンから爆薬じゃと聞いての。それなら中央を突っ切るために、丁度良いと思うて……」

「爆薬……。まぁ、ある意味爆薬だよね」

「阿呆。爆薬じゃのうて、ありゃ劇薬じゃ」

「まぁ……うん」


 否定は出来ない……むしろ今の状況で否定すると、余計怒らせそう。

 腐ったら気絶するレベルって言うのは知ってたけど、時間が経てば経つほどヤバい臭いになるとは思ってなかったんだよねぇ……。

 んー、どうにか臭いを抑えるか、もしくは腐りにくくする方法がないものか……。


「むむむ……」

「なんじゃ? 急に」

「いや、どうにか改良できないかなーって」

「まぁ、確かにの。今のままじゃ使えまい」

「そうなんだよねぇ……。作るのにも時間かかるし、それでいて腐るまでの時間が短いし……」

「防腐剤のような物が必要かものぅ……」

「防腐剤……」

「うむ。山葵(わさび)なんかにも、そういった性質はある。儂もまだ若い頃に、よく使っておったわ」

「若い頃って……。今もまだ若いんじゃ……」


 リュンさんは黙っていれば、人形のように整った顔立ちで、僕よりも年下に見える。

 確かに顔を弄ったりすれば、多少なりとも年齢を若く見せることはできるけど……表情の動きに影響がでるはず……。

 その点、リュンさんはよく怒るし、よく怒鳴るし、よく睨み付けてくるけど、表情に違和感は感じたことがない。

 ……というか、常に怒ってるからちょっと怖いよね……。


「アキ?」

「な、なんでもないです!」

「ほう? なにやら考えておったか?」

「べべ、別に……。それより防腐剤の……」

「いや、それも後じゃ。アキ、お主はラミナを連れて先に拠点に戻るが良い」

「……そういえばそうだった。リュンさんは?」

「儂は、ハスタと共にの。おぉ、そうじゃ、アキよ」

「ん? 何?」

「お主……ウォンからの依頼、何を対価に差し出したんじゃ?」


 対価……対価……んー……。

 あぁ、確か……


「終わった後に、何か1つお願いを聞く、って事だったと思う。今すぐに出せる物もなかったし」

「カカッ。お主、やはり面白いのぅ……」


 リュンさんは予想外と言った風に、口を広げて笑う。

 さっきまでの怒りが嘘みたいだ。


「ならば」


 そう……笑い声を止めつつも、機嫌の良さそうな表情で、リュンさんは僕をまっすぐ見据える。

 その目はとても綺麗で、腕の中でラミナさんが身じろぎしなかったら、つい見とれてしまいそうなほどだった。


「アキよ。儂にも褒美をくれぬか? ここを生きて抜け、拠点でまた合流するための、ちょっとした餌じゃ」

「餌……餌ね……。わかった。リュンさんのお願いも、僕に出来ることなら1つだけ聞いてあげる。……だから生きて帰ってきて、2人とも」

「うむ。任せよ」


 僕の言葉に、リュンさんはまた口を弓のようにして笑い、大きく頷いてくれる。

 リュンさんがわざわざそんなことを言うって事は……。

 ヤカタさんの相手は……かなり苦戦するってことなんだろうか……。


「では、行くが良いぞ」

「うん。先に行って待ってるよ」

「カカッ」


 お互いに背を向け、一歩前へと踏み出す。

 ラミナさんを抱きかかえた腕が、なんだか少しだけ……軽くなった気がした。


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