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184. あいつらはどこだ

 後方で鉄と鉄がぶつかり合う音や、風を切る音が聞こえる中、ラミナさんに手を引かれつつ走る。

 本当なら一気に走り抜けてしまうのが、一番良いんだろう……でも、僕は……。


「っ2人とも! 本当に、ありがとう!」


 少しだけ足に力を入れて、後ろへと振り返り、頭を下げる。

 見えたか、聞こえたかは分からない。

 けれど、きっと受け取ってくれたんだろう。

 顔を上げた僕の目に、2人の顔は見えなくても……少しだけ掲げられた手が、それを示してくれていたから。


「アキ、急いで」

「一気に抜けるよー!」

「うん。まずは森を抜けてしまおう。視界が開けるだけでも、行動しやすさはかなり違うはず。ハスタさん」

「わかってるよー! まっすぐ突っ切るから、しっかり付いてきてね!」


 言い切るが早いか、ハスタさんは手に持つ槍を大きいものに変え、加速。

 さっきまでの槍に比べると、穂先が長く、重そう……。

 まるで防御は考えてないような……突撃するためだけの槍。


「すごい……」


 多分、現実では取り回すことすら難しい武器。

 それを身体全体で支えることで、無理矢理ではあるけど武器として使ってる……。

 ……強く、なってるんだ。


「それにひきかえ……僕は……」


 守られて、ばっかりだ。

 実際、戦いにくい武器だし、って言うかそもそも武器じゃないし……。

 だから、戦えなくても仕方ない、仕方ないんだけど……。


「姉さん、頭が悪いから」

「……え?」

「姉さん。テストではいつもギリギリ。お母さんもよく怒ってる」

「そ、そうなんだ……」

「でも、諦めない」

「諦めない?」

「そう。頭が悪いから、テストではいつも解ききれてない。時間が足りてない。でも、最後まで頑張ってる」

「そっか……」


 ハスタさんらしいと言えば、ハスタさんらしいかな。

 きっと、解けなくても、なんども繰り返し考えて、解けるまで頑張っちゃってるんだろう。

 僕は解けそうなものから手を付けるけど、彼女はそうじゃない。

 とにかく目の前のものを全力で……。


「ラミナさんは、ハスタさんのこと……ちゃんと見てるんだね」

「そう。姉さん、好き」

「うん。見てれば分かるよ」


 僕が初めて2人に会ったあの日。

 ラミナさんとハスタさんは、すごい連携で玉兎を倒してた。

 その後の薬草集めでも、ラミナさんはハスタさんをよく見ていて……ハスタさんが薬草を見つけるまで、見つからないフリをしてたっけ?

 ……そういえばあの時、ラミナさんの顔が……。


「抜けたー!」

「っ! はい!」


 思い出してしまった笑顔を振り払うように、声を出して進む速度を上げる。

 い、今はそれどころじゃないからね!


「……止まって」

「んぐっ!?」


 一気に森から遠くまで行こうとした僕の服を掴んで、ラミナさんが後ろへと引っ張ってくる。

 そのせいで、頭だけ前に出たからか、息が……!


「な、何?」

「誰か来る。姉さん」

「わかった!」


 ラミナさんの意図するところが分かったのか、ハスタさんはまた武器を持ちかえる。

 今度は細く、少し短めの槍だ……アルさんの大剣と同じくらいかな……?

 彼女はそれを前へと構え、いつでも踏み込めるように、腰を落とす。

 僕もそれにならって、インベントリから草刈鎌を手に取った。


「おーおー、熱烈な歓迎じゃねーか」

「この声って……!」

「姉さん」

「――ハッ!」


 声を聞くだけで、少しだけ震えが走る……。

 そんな僕の反応で理解したのか、ラミナさんは短く合図を出し、それに応えるように、ハスタさんは一歩前へと踏みだして、前へと槍を突き出した。


「良い突きじゃねぇか。だが、ちょっと甘いな」

「ッ!」

「俺はその程度じゃやられねぇよ。だが……今はそれどころじゃ無い(ねー)んだよ」

「それどころじゃ、ない?」


 腰から抜いた剣でハスタさんの槍を弾き、だらりと腕を落とす。

 なんだろう……今までと比べて、声に迫力が無い……?


「アキっつったか。あいつらはどこだ?」

「あいつらって……」

「エセ忍者と下手くそ狩人だよ。俺が死んだ後にあいつらは生きてんだろ?」

「死んだ……? そういえばさっき、忍者の人が赤い鬼って」

「そーそー、あいつ滅茶苦茶過ぎるぜー? 矢を掴んで俺の(ココ)に刺しやがった……ありゃビビるわ」

「うわ……」


 彼は、そう言いながら親指で喉の中心を軽く叩く。

 その場所に……矢を突き立てる……。

 想像しただけでも、恐ろしさに顔が歪む。

 赤い鬼って、あの場所と話的にリュンさんだよね……滅茶苦茶だ……。


「それで、知ってんだろー? あいつらの場所。俺は今、お前らと戦う気は無い(ねぇ)。あいにく、デスペナ中だからさ」

「……僕らの来た方向にまっすぐ奥へ。枝も葉も魔物も、全部無視してまっすぐ突き抜けたから、跡があると思う」

「アキ?」

「死んですぐは体が筋肉痛を強くしたみたいに痛い。だから、行っても戦えないとは思う。けど……」

「アキちゃん……?」

「あの2人を、助けてあげて欲しい。……助けてくれたから」


 前に立つハスタさんを押し退け、彼と向かい合ってから頭を下げる。

 僕の後ろで、息を飲む声が聞こえたけれど……今はこれしかないから。


「はっ。なに言ってんだ、てめえは」


 頭を下げたままの僕の頭上から、少し小馬鹿にしたような声が降ってくる。

 その声に、反論しようと顔を上げた直後……


「……だが、当たり前だ。俺の仲間だ、言われるまでもねぇ」 


 なんて、彼は真面目な顔で、そう答えてくれたのだ。

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