157. また、明日
「ん! んんんん! ……美味しいー!」
「……」
拠点東側の木材置き場で、自分達が取ってきた木に腰かけつつ、オリオンさんの淹れてくれたお茶を味わう。
ハスタさんも、ラミナさんも、各々が各々でお茶の美味しさに舌鼓を打ってるみたいだ。
というか、髪色以外はほとんど一緒なのに、反応が違いすぎてちょっと面白い。
ハスタさんは全身で表現して、ラミナさんはただ静かに、飲んでは頷いてを繰り返してる。
けど、それもわかる……やっぱりオリオンさんはすごいよ……。
環境が整ってなくても、こんなに美味しいお茶を淹れられるなんて。
「お気に召したようで、大変嬉しく思います。ただ、合わせの方は、出来合いの物になってしまいますが……」
「大丈夫」
「うんうん。気にしないでください! 私は今でも十分すぎるほどに満足ですからー!」
そう言って手持ちのお茶を飲む2人。
けど、2人共……お菓子が楽しみなのか、視線がうろうろして、ちょっと挙動不審な感じ。
オリオンさんもそれには気付いているんだろう。
少し苦笑気味に、インベントリから袋を取りだし、その中へ手を入れた。
「紅茶が少し甘めですので、こちらはさっぱりとしたクッキーにしましょうか」
「クッキー!」
「……!」
……目ってホントに感情を表してくれるんだなぁ……。
クッキーって聞いた瞬間、2人の目が光ったような気がする。
女の子って、やっぱりお菓子が好きなんだ。
「お、おいしー! サックサクで、紅茶の味にも合うし、美味しいー!」
「……美味しい」
「食べるのがもったいないー! でも、手が止まんないよー!」
「姉さん、それラミナの」
「バレたー!」
ワイワイと、主にハスタさんが騒ぎながら、お茶を楽しむ。
夕日が完全に隠れるまで……お茶会の時間はもう少しだけ。
なんて、ガラでもない感傷に浸りながら、僕はゆっくりお茶を飲み干した。
「じゃあアキちゃん、またねー!」
「うん。今日はありがとう。またね」
「アキ」
「ん?」
「明日も、来る?」
オリオンさんに対し、「ごちそうさまです、師匠!」とか言ってるハスタさんを尻目に、ラミナさんが僕のすぐ前に来る。
今の僕とほとんど変わらない背丈の彼女は、いつもの無表情でそんなことを言いながら、まっすぐ僕を見た。
「……うん。来るよ、きっと」
「そう。ならいい」
「何か用があった?」
「そうじゃない」
「そうなの?」
「そう」
じゃあ何で聞いたんだろうか。
よくわかんないなぁ……。
でも、明日も引き続き伐採しないといけないし、出来る限りログインしないと……!
トーマ君のことだから、明日辺りには図面作ってそうな気がするしね。
「アキ。また、明日」
「うん。またね」
「……また、明日」
「あ、はい。また、明日」
見つめていた彼女の目から、妙な圧力を感じてすぐに言い直す。
あ、もしかしてさっきのって、明日も会おうってことだったのかな?
僕としては、全然大丈夫だから良いんだけど。
「アキさん、皆様戻ってきたとのご連絡がありました。私達もそろそろ向かいましょう」
「あ、はーい。それじゃ、ラミナさん達、今日はありがとね!」
「いえいえー! 美味しいお茶とお菓子食べれたし、全然気にしないでー! いってらっしゃーい!」
「アキ、いってらっしゃい」
見送ってくれる2人に手を振りながら、アルさん達の元に向かう。
なにか新発見とかあったかなぁ……?
「アキさん、あそこです」
「んー? あ、見えました見えました」
拠点自体はまだ大きくなく、建物も少ないからか、少し歩くだけでもみんながすぐに見つかった。
人は多いんだけど、それぞれのパーティーごとに固まってるからか、見つけやすいというか……。
むしろ、アルさん達って有名らしいから、そこだけぽっかり空いちゃってて余計に分かりやすいというか……。
「お、アキさん達も来たか。お疲れ様」
「あ、ありがとうございます。アルさん達もおかえりなさい。どうでした?」
「そう、だな……。詳しい話は少し離れたところで話そうか」
「わかりました!」
建物がなくて、広場みたいになっている場所から、建物の裏側……人の少ないエリアに向かう。
どうやら探索側は、まだ協力よりも、パーティー同士で牽制しあってるような状態みたいだ。
んー……大変そうだなぁ……。
「よし、この辺で良いだろう。リア、机を頼む」
「はいはーい。ほいっと」
返事をしながら、リアさんは4人掛けくらいのテーブルを2つ取り出す。
なるほど……テーブルを持ってくる……か。
さすがだなぁ……僕とは用意のレベルがひとつもふたつも高い……。
「それじゃ、この地図を見てくれ。朝にも言った通り、この地図は調査が進むと空白部分が埋まる仕組みになっている。それを踏まえてこの地図を見ると……」
「なんや、これ……。数ヵ所だけ、穴が空いたみたいやないか」
「変ですね……。奥は埋まっているのに、その手前は描かれていない……」
トーマ君やオリオンさんの言う通り、アルさんが見せてくれた地図には、数ヵ所……5ヶ所だけ、真っ白なままだった。
というか、それ以外が埋まってるってみんな頑張り過ぎでは……。
「他のみんなも気付いたとは思うが、2人の言う通り、何ヵ所かだけ『不自然』に空いている」
「お昼過ぎにそれに気付いた私達は、奥に向かう予定を変更して、そこに向かってみることにしたの」
「そのまま残しているのは、どうにも気持ちが悪かったからな」
「私もアルの気持ちと一緒で、気持ち悪かったから。そうして向かったら……」
アルさんとリアさんが、お互いを補足するみたいに地図を指差しながらルートを説明してくれる。
どうやら向かった先は、地図の右下……地図上では拠点から程近い場所の空白地点。
何が……あったんだろう……。
「あったのは、崩れた遺跡だ」




