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141. ここだったのに

「あっ、もうこんな時間!?」


 あの後も図書館の隅で本を読んでいた僕は、窓から見える空が茜色になっているのを見て、慌てて席を立った。

 でも、本はどうしよう……。

 途中やめになっちゃうし、借りて帰る?


「でも、またこれを返しに来るのも……」


 外、暑いし。

 そう思って窓の外を見れば、暑さで景色が空気が揺らめいているような気もしてくる。

 ……うん、また今度にしよう。


「そうと決まれば、返して早く帰んないと」


 母さんが怒ったら怖いしね。

 こう……淡々と、私怒ってますって雰囲気を出してくる感じで……。


「うう、怖い。怒られたくないなぁ……あれ? ここだったのに埋まってる……」


 元の場所に返そうと本棚の前に来てみれば、本の隙間が無くなっていた。

 多分、誰かが隙間に本を入れちゃったんだろうけど……。

 んー、他の隙間は……。


「あ、あった」


 元の段より2段上。

 少し高い気がするけど、あのぐらいの高さなら背伸びすれば……。


「ほっ! ふっ……! んぎ、ぎ……!」


 もうちょっと……あと、すこ……し……!

 そう思って力を入れた瞬間、手から本が滑り落ちる。


「あだっ!?」


 ゴッ! と、鈍い音を立てながら、本は綺麗に僕の頭の上に落ちた。

 しかも背表紙がまっすぐ!

 硬いところ!


「ぐぅう……」


 痛い……いたい……!

 そんな痛みに頭を押さえて唸ってる僕の上に影が差して、落ちた本が拾い上げられる。

 呻きながらも、かろうじてそれに気づいた僕は、まだ痛む頭を押さえつつ顔を上げた。

 

「……大丈夫か?」


 声とともに、僕の前に手が差し伸べられる。

 顔は逆光になっていてよくわからないけれど、たぶん茶色だろう髪が光に当たって、なんだか金色っぽい……。


「……」

「おーい、大丈夫なんかー?」

「はっ! だ、大丈夫です!」


 ぼーっとしていた僕に、再度声がかかる。

 その声にハッと意識を戻し、僕は慌てるように返事をして男性の手を取った。

 パシッと音が出る勢いで取った手は、僕の手よりも大きくて、太さもある。


「……あれ?」


 というか、僕の手ってこんなに小さくはなかったと思うんだけど……。

 まぁ、見る感じ彼の方が背も高いし、体格もいいから仕方ない……んだよね?


「なんや、元気や……、ん?」

「ありがとうござ……どうかしました?」


 僕を引っ張り上げてくれた彼は、呆れ半分に僕の顔を見て、その表情を一変させる。

 困惑した顔で、何かを確認するみたいに僕の顔を何度も見て――


「君……、ちょっとすまん」


 その言葉と共に、繋いだままだった僕の手を離して、両手で顔を抱えるように僕の横髪を後ろに引っ張る。

 力づくじゃないから痛くはないんだけど、ちょっと急には……!


「あ、あの……」

「……アキ、か?」

「……え?」


 僕がその声に困惑した声を返すと同時に、彼はその手を髪から離し一歩後ろに退がる。

 そのまま、有無を言わせない速度で背を向け歩いて行ってしまった。


「え、え?」


 いや、ちょっと……なに?

 えっと、誰……?

 困惑から落ち着くまでの数分間、僕の頭にはそんな感想しかでてこなかった。

 落ち着いてから確認したけれど、本は仕舞っててくれたみたい。

 そこに関しては、ありがとう……?


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スタプリ!―舞台の上のスタァライトプリンセス
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