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139. アキっぽい

 僕がみんなのために頑張れることは、ひとつしかない。

 なら――


「……母さん」

「んー?」

「ちょっとだけでも良いから、教えて欲しいことがあるんだけど……」


 中身のなくなったコップを机に置いて、母さんは僕の方に顔を向けた。

 たぶん驚かれそうな気がするんだけど……。


「あのさ……。包丁の使い方、教えてくれない?」

「え? ……どうしたの? いきなり」


 予想通りと言うべきか、予想以上だったというべきか……。

 母さんは、少し驚いたみたいにキョトンとした表情を浮かべながら、僕の方を見た。

 うん、わかってる……わかってるけども。


「その、今やってるゲームで、包丁も使ってるんだ。薬を作ってるんだけど、それで」

「へぇ……。最近のゲームは凝ってるわねぇ」


 僕がVRゲームをやってることは言ってあるからか、母さんはすんなりと納得してくれる。

 一応未成年だし、VRってまだまだ認知も浅いから、一応ね?


「まぁ、いいわ。あんた今日はもうゲームしないんでしょ?」

「あ、うん。今日はもうやめとくよ。日を置いた方が良い気がするし……」

「なら、今日の晩御飯の支度、手伝いなさい。その時に教えてあげるわ」

「ホント! 母さん、ありがと!」


 笑いながらも頷いてくれた母さんに、僕も笑い返し、ホッと胸を撫で下ろす。

 僕には戦う技術も、魔法を駆使する力も無いけれど……せめて薬を作ることだけくらいは、本気でやりたい。

 ……みんなの後ろじゃなくて、横に立つために。


「じゃあ、母さんは買い物行ってくるから。あんたも少しくらい外でも散歩してきなさい。気分変えるには、環境を変えるのも手よ」

「えぇ……、暑いよ?」

「まぁ、騙されたと思って行ってきなさい」


 そう言って、母さんは鞄を持って買い物に行ってしまう。

 その背中を見送りつつ、僕はため息をひとつ吐いて部屋に戻ることにした。

 ……着替えないと外に出る服じゃないし。




「んー、確かに少し白い……? 母さんの言う通りかも」


 着替えるために部屋着を脱いだ僕は、姿見に写った姿にそんな感想をこぼす。

 もちろんゲームの中の女の子な自分に比べれば、まだまだ暗めの色ではあるけど……。

 去年焼けてない時ですら、もう少し黒かったような……?


「それに髪もすごい伸びてる……。こんなに伸びてたんだ」


 夏休み前までは切ってなかったにせよ、耳に少しかかる程度だった髪は、今となっては耳を完全に隠していた。

 身体をひねって確認してみれば、後ろ髪なんて肩甲骨辺りまで伸びてる……。


「こんなに伸びるの早かったっけ……? いつも半年くらいで切ってたけど、ここまで伸びたことなかったと思うんだけど。……あ、そうだ、試しに」


 左右両方の髪を一房ずつ掴んで、後ろの辺りに……。


「おぉー……アキっぽい……」


 こうやって見ると、ゲームの僕も現実の僕を元にされてるんだってことが分かる。

 もちろん、ちゃんと見れば顎の形とか、頬の肉付きとか、ところどころ違うんだろうけど……。


「でもこの髪型、耳のあたりが涼しい……」


 耳の周りを覆っていた髪がなくなるからだろうけど、それだけでもかなり違う。

 夏場に女の子が髪を上げる理由が分かったかも……。

 これは楽……。


「んーでも、なんでこんなに髪が伸びたんだろ……。ゲームのせい? そういえば確か、VRで脳が勘違いするとかってアルさんが言ってたっけ……?」


 でも、それで髪が伸びるとか、肌が白くなるとかはないよねぇ……。

 アルさんも、体の動かし方とかに影響するかもとか言ってたはずだし。


「それに……、まぁ……あるし?」


 確かめるように、手を下着の中に伸ばしてひと掴み。

 その指と、その箇所にはしる感触に、今までと変わりないことを確認すると、なぜかホッと息が漏れた。


「……いくらゲームで女の子の身体になってても、さすがにね」


 そんな風に言葉に出して、なぜか早鐘を打っていた心臓を落ち着ける。

 僕がこっちの世界でも女の子になるなんて、そんなわけがない、当たり前のはずなのに……。


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スタプリ!―舞台の上のスタァライトプリンセス
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