136. 接敵まであと5秒
「よし、全員いるな」
「無事合流できて良かったです……。ただ、ここからどうすれば良いのか……」
「そうだな……。開拓拠点の方向さえ分かれば良いんだが……」
アルさんの言葉に周りを見まわしてみても、背の高い樹に囲まれてる状態で、先は見えない。
樹の上から見れれば分かりそうなんだけど……、さすがにこの樹を登るのは大変そうだし……。
「なにかしらの目印さえあれば良いんですが……」
「適当に歩いて奥に入っても面倒だろうしな。せめて森の外に出られればまだ見通しが利くんだが」
「そんなこと言っとる暇もなさそうやで? なんか近づいてきてねーか?」
「なんかって……」
耳の良いトーマ君には何か聞こえるんだろうか……?
首を傾げた僕に、少し苦笑いを見せながら、トーマ君はすぐ近くの樹へと登っていく。
えぇ……、そんな簡単に登れるの……?
「……相変わらずだな」
「そう、ですね……」
呆気にとられてる僕らを置いて、トーマ君は樹の頂点辺りから飛び降りてくる。
……って、結構高いよ!?
慌てた僕を尻目に、彼は音も立てずに着地をして、楽しそうに笑った。
「心配せんでも大丈夫やで。それより、アルの右手側から敵さんのお出ましや」
「む、何か見えたか?」
「多分、猪やと思うんやけど……。いかんせん視界が悪いわ」
「いや、それだけ分かれば十分だ」
そう言って、アルさんは背中へと手を伸ばし、背負っていた大剣を抜いた。
以前までの武器より少しぶ厚い感じがする……。
たしか僕の採取道具と同じ時にガラッドさんにお願いしてたはずだし、あれが新しいアルさんの武器なのかな?
「ジンは俺の横に付け。トーマは戻ってきたところすまないが、上から観察してもらえるか?」
「おう」
「りょーかい」
「リアとカナエさんは後ろから頼む。ティキはいつものを。生産メインのメンバーは後ろへ。流す気はないが、自衛できるようにしておいてくれ」
アルさんの指示に各々返事を返し、戦闘の準備を整えていく。
僕は草刈鎌を手に、スミスさんの横に立つことにした。
でも、アルさんすごいなぁ……。
人数が多いのに、すぐに指示が出せるなんて……。
「アル、来たで! 予想通りの猪や! でかいのが1と、取り巻きが2! 接敵まであと5秒!」
「リア! 最初にど真ん中打ち上げるぞ!」
「――〔天を貫く砂礫の塔〕!」
ティキさんが〔聖なる守護の障壁〕をアルさん達にかけた直後、樹をなぎ倒すように巨大な牙を持った大猪が現れ……、宙を舞った。
まさに今、というタイミングで発動したリアさんの土魔法で、空に打ち上げられたのだ。
というか、これだけで倒せるんじゃ……。
「ジン! 右を頼む!」
「おう!」
突然現れた砂礫の塔に驚いたのか、左右を走っていた猪が一瞬だけ速度を落とす。
しかし、その一瞬の隙を突くように、アルさんとジンさんが左右に分かれ、目標を定める。
「フッ!」
上下2つに裂くように、ジンさんは左右に裂くように、自分たちの武器を振り抜いた。
そして、2人が構え直す間もなく、猪たちは空中へと消えていく。
「そろそろ敵さん、起きるでー」
樹の上から戦況を確認してたトーマ君が、のんびりとした声で伝えてくれる。
その声に大猪の方を確認すれば、立ち上がり、今にも走りだしそうに力を溜めているところだった。
派手に宙に舞った割には……、あんまりダメージがなさそうに見える……?
「走られたら面倒だな……。ジン、止めるぞ」
「げ、マジかよ……」
「走られたら、リアもカナエさんも狙いにくくなるだろ?」
「ったく、人使いが荒いっての」
ジンさんは悪態吐きながらも、大猪へと武器を振るう。
言葉は嫌がってるみたいだけど、笑ってるような感じがする……。
けど、大猪もタダではやられないみたいに、アルさんの大剣と同じくらいの牙を振り回して抵抗していた。
「流れ移ろい行くこの身へ、穢れ無き乙女の恩寵を」
「カナエちゃん、足のちょっと前狙ってね」
指示を出すリアさんの横で、詠唱しながらカナエさんが頷く。
アルさんとジンさんが止めてくれてる間に、リアさん達も何かをやるみたいだ。
でも2人、いつの間に仲良くなったんだろ……、年齢が近そうだから話が合ったのかな?
「愛は一筋の涙となりて、切なる願いの糧となれ」
「アル! ジン! わざと走らせて!」
「〔愛を象る乙女の涙〕!」
リアさんの指示で、大猪の横から2人が退く。
そのチャンスを逃さないとでも言わんばかりに、大猪が走り出そうとして……頭から地面に突っ込んだ。
前足を出した直後に、カナエさんの魔法が当たったみたいだ。
「よっしゃ、チャンス!」
飛びつくように、ジンさんが真上から斧を落とす。
確実に決まったかと思ったその一撃は、危険を察知したのか、大猪が振り上げた牙に当たり、その牙を叩き折るまでに終わってしまった。
しかも、その一撃で体勢を戻せてしまったのか、アルさんやジンさんが止める暇もなく、大猪は僕の方へ――
「……って速ッ!」
一瞬で眼前に迫っていた大猪から避けようと、僕は咄嗟に横へ飛んで……ベシャッと、頭から地面に突っ込んだ。




