130. 蛇の道は蛇
「はー、大変やったなぁ……」
「ホント、まさか僕が……って感じだよ」
ぐるぐると、跳ねない程度の速度で鍋の中身をかき混ぜる。
ほんのり緑色に染まったのを確認してから、火を落とし、お玉から手を離した。
「まぁ……、言われてみりゃわからん話ではないな。情報を得てたにしても、初戦でボス撃破を2回もやっとるわけやし」
「そうなんだよね……。といっても、僕ほとんど何もしてないんだけどね……」
冷ました鍋の中身を、ため息吐きながら瓶へと移す。
イベントの開始が明日に迫った今日。
僕は作れていなかったポーション類や材料の加工などで、ログイン直後からずっと作業場に籠もっていた。
「しかしそうか……、森の時も見られとったか……」
「トーマ君でも気付かなかった?」
「あぁ、全然な。あん時って、雨降っとったやんか。 やから、気配を感じにくかったんよ」
「あー、なるほど……」
実際、蜘蛛との戦いでは、先手取られてばっかりだったしね……。
僕もアルさんも、トーマ君に頼りすぎてたところも悪かったんだろうけど。
「とりあえずその、リュンとフェンってやつについては調べとく。なんや裏で動いてそうやしな」
「ん? 2人ともいい人だと思うけど……?」
「あー……、別にそん2人が悪いってわけやなくて……。そいつらを動かしたやつを探るってことや」
「ふむ……?」
「ま、その辺は任せとき。蛇の道は蛇ってやつやで」
そう言って、トーマ君は困ったように笑う。
まぁ、よくわかんないよりはわかった方が良いかな……、なんて思いながら、僕は乾燥した薬草をすり鉢で潰していった。
「……しっかし、アキはどんだけ作るんや?」
「んー?」
ゴリゴリと音を立てながら、薬草をひたすらに潰していく。
この、ある程度潰れたところから、もっと細かくするまでが大変なんだよねぇ……。
すり鉢の中を塊が逃げるせいで、中々潰せない……。
「さっき作っとったのが、[最下級ポーション(良)]の味付きやろ? んで、今はまた別のん作っとるやん」
「あー……。今作ってるのは、みんなに渡すわけじゃないんだけど……。最下級の即効性を作るための準備かなー」
「聞いた話やと、粉を水に溶かすんやったか?」
「そうそう。ただ、即効性は最下級なら1分。下級なら3分で腐るから……」
「腐ったら効果変わる感じか」
「うん。回復量は変わらないんだけど、毒とかのランダム効果も発生するし……臭い」
「臭い……? そんな気にするほどの事なんか?」
「……僕は気絶したね。下級のやつで」
ほんの1ヶ月足らずの出来事なのに、なんだかすごい懐かしいなぁ……。
あの出来事があって、おばちゃんに服を貰ったんだっけ。
「なんつーか……、そっちの方が[風化薬]より劇物みたいやな……」
「まぁ、そうだね……。それですぐ腐るから、基本的には戦闘中とかに作るんだよ」
「ん? 森に行った時も使ったんか?」
「確か、カナエさんを助けた時と……。あ、確かトーマ君も1回飲んでるよ」
「ぁ? マジで?」
「うん。ほら、大蜘蛛と戦ってるときに」
その言葉に、トーマ君はすごい嫌そうな顔をする。
多分、飲んだ味を少し思い出したのかもしれない……。
そういえば、僕はまだ飲んだことなかったような……いや、別に飲みたいとも思わないけど。
「即効性ってアレか……。なんかザラザラしとったやつか」
「そうなの?」
「飲んだことないんかい! まぁ、なんつーか……。粉の形を感じるってやつやな」
「へー……」
まぁ、即効性は粉を溶かす形だから、粉っぽさが残るのは仕方ないかなぁ……。
他のポーションは、基本的に『成分を抽出する』形だから、固形な感じは減るんだけど……。
「しかし、効果が良くてもそんな短時間やったら使いどころ難しいな……」
「そうなんだよねぇ……。もっと簡単混ぜれるか、腐るまでの時間が長くなれば使える気がするんだけど……」
「その辺、俺にはあんまし分からんけど、材料を増やすとかやないんか?」
「んー……、たぶん違うんだよね……。手順か、今の材料の状態を変化させる感じかなぁ……」
「水を湯に変えたり?」
「そうそう。あと……薬草全部を粉にせずに、茎とかを切り離すとか……?」
「あー、せやな。それも出来るか」
持って行くものの準備をしつつ、思いついたままに話を広げていく。
実際、こうやって話してる時の方が頭動いてる気がするし……。
イベントが終わったら、軟膏とかも含めて、改良してみるかなぁ……。
あ、解毒薬もつくってみないと。




