128. 女の子でしょう?
「アキちゃんを見てたの。とあるところから依頼を受けてね?」
「僕、を……?」
ラミナさんが僕の隣に座り直したのを見て、フェンさんはそう口にした。
でも、僕を見ていたって……なんで?
「頼まれた理由は分からないわ。けど、何か起きるかもしれないから見ておいて欲しいってね」
「……誰に、ですか?」
「それは言えないの。ごめんなさいね」
そう言って、フェンさんは目を伏せる。
何か起きるかもしれないから、かぁ……。
「ん……? フェンさん、さっき僕……私を見てたって言ってましたけど、いつから?」
フェンさんと出会ったのは、先週の日曜日……まだ5日も経ってない。
その時は僕のことを知らなかったはず……。
だって、名前を聞かれたし、その時のリュンさんの反応は嘘をついてるような反応じゃなかったと思う。
「そうねぇ……。見てたのはあの後からだったかしら……」
「でも、確かその後にも1度会いましたよね? あの時もですか?」
「あの日は違うわぁ。あの日は私が別件で動いてたの。代わりにリュンが見てたはずよぉ」
なるほど……。
そういえばあの日、フェンさんとはぶつかったけど、リュンさんはいなかったっけ。
それに、確か……リュンさんのこと、『ビジネスパートナー』って。
「……どうして」
「さっきも言った通り、頼まれた理由は分からないの。でもね、アキちゃん……調べることはできるわぁ」
「え?」
「アキちゃんとぶつかった日。別件で動いてたって言ったでしょ? 理由を調べてたの。ミーだって、知らずに動くのは危険だから」
真面目な雰囲気を少し崩すように、フェンさんは微笑む。
その笑顔に、知らず知らず強張っていた身体から、少し力が抜けていく気がした。
「これが理由かどうかはわからないけれど……。最初のきっかけは『茶毛狼の討伐』だと思うわぁ。最初に倒したのが、アキちゃん達のパーティーだったの」
「あれ? でもあの時はすでに何組か戦ってましたよね……?」
「そうね。ただ、高い攻撃力や防御力。狼らしい速さ。それに加えて、暴風を起こす咆哮。特に咆哮で前衛が死んでしまって、あえなく……というパターンが多かったみたいねぇ」
「あぁ……、あれは確かに……」
あの時は、シルフが暴風を防いでくれたことでアルさん達がほぼ無傷だったはず。
シルフが防いでくれてなかったら、きっとアルさんもジンさんも、ただでは済まなかっただろうし……。
「その件から、パーティーリーダーのアストラルに注目が集まり始めたの。私は依頼がなかったから知らなかったのだけれど、その後の大蜘蛛討伐も見られてたみたいよぉ」
「え、大蜘蛛もですか!?」
あの時はトーマ君もいたし……。
でも、トーマ君なら気付いててもおかしくなさそうなんだけど……。
「えぇ、見られていたのよ。アキちゃん……あなたの秘密をね?」
「秘密……ですか?」
あの時は無我夢中で、みんなで勝つことしか考えてなくて……。
なにかやったかなぁ……?
「元々、アキちゃんは可愛いし、調薬技術を持っていることもあって、アストラルほどではないけれど、少しばかり注目はされてたの」
「そ、そうなんですか……?」
「えぇ、そうよ。アキちゃんってば、こんな可愛いのに無防備なところが、人気の秘密みたいねぇ」
「ん? 無防備ですか?」
「……アキちゃんを調べ始めてから知ったことなんだけど。あなた、膝丈のワンピースで街を走り抜けてたみたいね?」
「……あっ」
そんなことあったっけ、と思いながら、記憶を掘り返すと……あれだ……。
アルさん達が、訓練所で模擬戦をした時だ……。
確かに、あの時……すごい周りから視線を感じたっけ……。
「でもめくれ上がっても、異性からは黒いモヤみたいに隠れるから大丈夫よぉ」
「あ、なら良かった……。 ん? あの……異性って、男性ですよね?」
「なぁに? アキちゃん、女の子でしょう?」
なにを当たり前のことを、と言わんばかりの雰囲気で、フェンさんが笑う。
いや、そうなんだけど……、そうなんだけども……。
なんて、僕はなんだか釈然としない気持ちでいっぱいになった。




