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112. 静かに燃える

 真っ赤に燃える火、そこから伝わる熱が、少し離れているはずの僕の頬を熱くする。

 ガラッドさんの工房の奥。

 数人の職人達が作業している作業場の、一番端。


「あっつ……」


 この炉と周辺が、スミスさんの作業場として貸してもらっている場所らしい。

 といっても、数人の職人達で交代しながら炉の管理をしているらしいけど……。


「……」


 そのスミスさんは、炉の前で目をつむり、熱している鉄だけに集中しているように見えた。

 でも、確か鍛冶って温度が大事って聞いた事があるけど……。


「アルさん。火の温度って、確か色でしたよね?」

「あぁ、そうだな。赤が低く白くに近づくほど高くなるはずだが……」

「なのにどうして……スミスさんは目を閉じているのでしょうか……?」


 詳しくはないけど、料理なんかでは音が変わる瞬間が、とかは聞いた事があるけど……。

 スミスさんがやってるのはそういった類いのことなんだろうか?


「――ッ!」


 僕らがそんな話をしていると、突然弾かれたようにスミスさんの目が開かれる。

 そして、真っ赤になった鉄を取りだし、無心で叩き始めた。


「……ほぅ」


 その気迫と槌捌きに、隣のアルさんも思わず声を漏らす。

 さっきまでの少し軽いイメージとは違い、そこにいるのは紛れもなく鍛冶職人。

 腕はまだ見習いとはいえ、その気迫や作業への集中力は、ガラッドさんと比べてみても遜色ないほどだった。


(なんだか、不思議な感じがします)

(ん?)

(なにか分からないのですが……、不思議な感じがします……)


 僕だけに姿が見えるよう、半透明の色をしたシルフが小さく呟いた。

 それにしても、不思議な感じ……?


(以前、ガラッド様の作業を見たときとなんだが違うような……)

(それは、腕とか経験が違うからじゃないのかな?)

(そう、なのでしょうか……?)


 スミスさんの方を見ながら、シルフは首を傾げる。

 たぶん、シルフには感じられる『なにか』があるのかもしれない……?

 そう思ってスミスさんの方を確認してみても、やっぱり僕にはよくわからない。

 だから、シルフの話はひとまず置いておいて、隣に立つアルさんへと声をかけた。


「アルさん、どうですか?」

「む……。まぁ、あんなことを言ったが、俺には鍛冶のことはよく分からない。ただ……」


 アルさんはそこで言葉を句切り、両腕を組みながら息を吐いた。

 

「あの姿を見れば十分にわかる。彼がどれだけ真剣に鍛冶と向き合っているのか、くらいはな」

「……ですね」


 僕らが、わざわざスミスさんに鍛冶の作業を見せてもらっているのは、それを確認するためだ。

 というか、アルさんが食堂での解散直前に「スミスさんが同盟のメンバーになることに異論はないが、その前に実力を知っておきたい」って言い出したからなんだけどね。

 

 まぁ……、僕もそれには賛同したんだけども……。


 僕らがそんなことを話している間にも、スミスさんは行程を進め、その鉄は次第に形を変えていく。

 本来は鉄鉱石からの鉄の抽出作業から始めるらしいんだけど、そこからやると時間がかかりすぎるため、今回は抽出済みの鉄を目的の形に成形する作業だけを見せてもらっている。


「んー、まぁこれで……」


 最初に叩き始めてから、どれだけの時間が経ったんだろう……。

 スミスさんはそう言って、鉄を作業台へと置く。

 その鉄は繰り返し叩かれて研がれたことで、最初の四角の塊からはまるで違う形へと変わっていた。


「これは……、ナイフ?」

「まだ柄とは合わせてないので刃のみですが、ナイフ……というよりも包丁ですね」

「包丁?」


 確かに言われてみれば、よく見る包丁と似た形をしている気がする。

 ……でも何で包丁?


「確かに作れるものなら何でも良い、とは言ったが……」

「えぇ、なので包丁です。……これはアキさんにお渡しする予定です」

「え!? 僕!?」

「僕……?」

「あ、いや……、そのなんで包丁を私に?」


 危ない危ない……。

 慌てると、やっぱりまだ『僕』って言っちゃうなぁ……。

 これは気をつけておかないと。


「アキさんが薬を作ってるって事、トーマから聞いてます。なんで、それで使えるものをと、さっき思ったんですよ」

「な、なるほど……」

「まだ柄を付けてないですからね。付けたらちゃんとした形でお渡しします。……それで、どうでした?」


 そう言って彼は、僕から、僕の横に立つアルさんへと視線を移す。

 まっすぐと見つめられたアルさんは、「あー」と少しばつが悪そうに視線を泳がせた後に……。


「一緒にやろう」と、言葉と一緒にスミスさんへ右手を差し出した。


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