自らが選ばれし者になろうとする無意識
一日一筆複数連題です!
お題「二つのことを同時にこなす」「九銅鑼に真」「折れた老木刀」「ゴンドラへの道」「心を折り続ける」
ある日から街の周辺に現れた九つの大銅鑼は人の心を容易く折った。九つの地点を繋げた九角形からでることが出来ないからだ。
誰か一人が一歩でも踏み出そうものなら大銅鑼が轟く。そしてその轟はほかの大銅鑼に伝播し、街を包む轟音となる。過去一度起こったその大音害を人々は「九銅鑼の音震」と呼び、日々囚われの人々の心を折り続けた。
数百年前から語り継がれる一本の老木刀が折れたことによりその老木刀を信仰する人々は大きく動揺した。昔この地を守っていた巨大な妖怪「がしゃどくろ」。そのがしゃどくろが用いていた武器がこの老木刀。いつしかそれは木刀というよりか神木となり、周囲の人々に恩恵を授け始めた。
数十年して老木刀から生え始めた枝は様々な果実を実らせ、それを地に落とすことで人々の食生活を守った。また、幾重にも折り重なった葉は雨を浄化しそれもまた、人々を助ける結果となった。
そんな神木もとい老木刀が折れたことはつまり、今まで恵まれていた供給が途絶えるということ。動揺するのも無理はない。
その二つの地を分断する大海を一隻のゴンドラが優雅に進む。
「奴らは知らないんだろうなぁ」
オールで水をかきながら遠くに見える折れた巨大樹を望む男は大してそのことが重要でないかのように言葉をつづける。
「早くあの麓を離れねぇと、取り返しつかなくなるってのによぉ」
反対方向を向いて見えるのは森。しかし男はその森の奥を見る。
「九銅鑼もそろそろ」
二つの街を苦しめる二つの要因を見つめながらオールのバシャバシャという音が鳴り響いた。
「九銅鑼の真は掴めそうか」
二つの街を分断する大海をゴンドラで横断する男と同じ羽織を羽織った少女に神父が問う。
少女の眼前には抽象画のような二つの壁画があり、それぞれに九つの二重丸と地面に突き刺さった剣の絵がある。
「大丈夫」
少女はそんな二つの壁画に左右の手それぞれを置き、かすかな光を送っている。
「がしゃの剣は折れたらしい」
神父の言葉にも動じない少女。想定内、ということだろうか。
「知ってる。そろそろだとは思ってた。九銅鑼もそろそろだよ」
そう言った途端、二つの壁画の間に、小さな繋ぎ目が現れた。
「おぉ、早いな、もう着いたのか」
と、神父。
「ちゃらんぽらんなくせに仕事は早いから、そこだけは助かってるわ」
と、少女。
「さて、始めるよ」
少女が壁画から手を放すと、二つの壁画が近づき始めた。
「九銅鑼の真とがしゃの剣は本来一つの神器。いつの間に分断したのかはしらないけど、早く繋げないと剣は滅び、九銅鑼は鳴り止まなくなる」
「お、始まったな」
大きな音を立てながら徐々に近づいてくる二つの大陸を見て口角を上げる男。
オールを放し、二枚の紙を両端に張り付ける。
すると、その紙に描かれた紋章が眩い光を発しながら大陸に伸びる。
「さぁ、この小さなノアに乗り込めるのは二人だけだぜ」
「あと、三時間だ」
新説神話を読解した少女はこう考えた。
「九銅鑼は元々がしゃの剣を守っていた台座。それを何らかの力が分断し、台座から九銅鑼が外れた。それによってがしゃの剣を守る力が途絶え、がしゃの剣に秘められた天地の力が人間にとって有益なものを齎した。九銅鑼とがしゃの剣が分断された記録はない。とすると、その分断で多くの人間もしくは全員の命が犠牲となった。見方を変えれば人々の命を原動力に二つは分離したのではないか。この人の命を犠牲に二つを分離する原理を九銅鑼の真と名付け、分離できるなら統合も出来るはずだ。しかしその二つを繋げるには再び人の命が犠牲となる。語り継ぐためには事実を知る人間が必要だ。九銅鑼とがしゃの剣の統合を避けるためには、ノアの箱舟が必要だ」
少女は新説神話に書かれた通り二つの大陸の起源を記す遺跡へと出向き、呪法によって統合の準備を進めた。男は少女の指示の下、ノアに選ばれるであろう人間を選別するために二つの大陸の間に出向き、その人間を待った。
心を折られたうえでまだ九銅鑼から逃げようと思う人間は存在するのだろうか。
信仰の象徴が折れたことで絶望した人々がその大陸を離れようと思うのだろうか。
無意識下に問いかける、選者の選別が始まった。
如何でしたか?
終始ガチャガチャしていた話でしたが、細かなところは想像していただければ幸いです。