七
宴は、豪華に、厳かに執り行われた。
各親戚に酌をしてまわっていた重一の御年十六を数える姪子は、頬を紅潮させながら、客人の元へ歩いてきた。
一礼して酌をすると、隣に座る主人にも徳利を傾ける。
客人と直接話すことが余程恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしながら、重一に酌をする間に、親戚一同が誰も知らなかった、客人の素性について彼に尋ねた。
「お前の知るところではないよ。」
重一は苦笑いをして、誤魔化す。
せめて名前だけでも、と姪が強請ると、隣でその様子を見ていた客人が、微笑を浮かべながら答えた。
「高菜と申します。申し遅れ、ご勘弁の程を。」
客人の身にしては丁寧な返答と、艶やかな声が重なり、姪子は一瞬惚けてしまったが、はっと我にかえると、小さな声で礼を述べ、そそくさと自分の席に戻っていった。
宴もたけなわ、翌日のこともあるからと、宴がお開きになった後、名前を尋ねた前の姪子が、高菜へ紙を手渡した。
高菜が話す隙もなく、年相応のいたずらっ子のような笑みを浮かべて、逃げるように去っていった。
高菜は用意された部屋に戻り、使用人に手拭いと湯を張った桶を頼んだ。
初夏の季節、天道の下を歩いた身体は、非常に不快感をもたらしたが、此処へ着いてから風呂へ入る時間がなく、宴でも少量ではあったものの、酒を煽ってしまったので、やむを得ず、身体を拭くことにしたのだ。
着物を脱いで、用意してもらった手拭いを湯に濡らし、体を拭きながら、前の姪子のことを考える。
手紙の内容は、今宵一緒に過ごしたいという、年不相応なものであった。
生憎、恋仲と呼べる関係をもつ者はいなかったが、近頃めっきり会っていない腐れ縁を思いだし、思わずくすりと笑ってしまった。
体を拭き終わると、時を見計らったように、障子の外に姪子が現れた。
入室を許可すると、障子が開かれ、外から緊張した面持ちの少女が入ってくる。
不安そうにしながら、高菜の顔を見る。
暫くもじもじとしていたが、やがて決心したように口を開く。
「先の手紙の内容は、了承して戴けたと受け取っても宜しいのでしょうか。」
高菜は、困ったようにはにかんで、否定の言葉を述べると、途端に姪子は、傷付いた顔をした。
「それは、恋仲の方がいらっしゃるからですか。」
慎重に言葉を選びながら、高菜は言った。