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神ノ山 萌黄   作者: 青空
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長かったようで、あっという間であった時間。


気付けば、重一がお付の者と共に、此方へ歩いて来ているのが確認できた。


名無し子は、客人に向けて頭を下げ、体勢を変えて頭首に頭を下げると、そっと立ち上がり、摺り足で歩いていった。



美しい客人の噂は瞬く間に広がり、名無し子が洗濯の続きをするために庭へ出ても、普段は声もかけられないような気位の高い女に声をかけられ色々訊かれたり、儀式の準備に駆り出され、一日の仕事を終える女共が、早々に仕事を終え、台所で言い争ったりしていた。


昼間がそれほど忙しなかったので、名無し子が洗濯を終える夕刻には、山村邸は、非常に賑やかになっていた。


名無し子が台所へ行くと、大方客人へ料理を運ぶ仕事の取り合いに敗れたのであろう者たちが、不機嫌そうに食事の支度をしていた。


「ほら、ぼやっとしてないで、手伝っておくれ!」


普段は、あまり台所仕事を手伝わせてもらえないが、この時ばかりは八つ当たりのためか、台所仕事をすることになった。


名無し子は、水仕事ですっかり荒れてしまった手を洗い、煮物の盛り付けにかかった。




突然設けられた宴の席には、頭首 重一を元とする、山村本家の者と、頭首の妻の親族の者がよばれていた。


綺羅びやかな室内に、美しい音楽と舞、黄金の屏風には山が描かれており、各招待客のひじ掛けや御膳は、一目で上質と分かるほど黒光りする物がおかれ、宴を開いた主人が、今回の主役であるこの男を如何に重要人物としてとらえているかを、招待客や仕える者共に、否応なしに分からせる物となった。


美しい御膳の上には、つややかな白米、甘くふわふわした食感の楽しめるお麩の入ったお吸い物、こんがり焼かれたイワナの塩焼き、こうじに漬かったかぶ、茗荷みょうがの酢漬け、大根と茸の煮物、大豆の入った甘辛味噌、菜の花のごま和え、甘露煮など、その土地の食材をふんだんに使った料理に加え、川の綺麗な水を使った酒が用意された。


時期が時期だけに、品数が少ないといえど、農夫や山村に仕える者共の身分では、口にすることがないような食事である。


親族の者たちは、老いも若きも、男も女も、そんな豪華な物や食事には眼もくれず、客人を見ては頬を染める。


主人の重一が乾杯の音頭をとって、宴が始まりを告げる。


夜はまだ更けたばかりだ。





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