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神ノ山 萌黄   作者: 青空
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頭首 重一をよぶ間、名無し子と客人の間には、ほとんど会話がなかったが、その沈黙は名無し子にとって、気まずさを感じさせるものではなかった。


時折話しかけられる、その男の声が耳に心地よい。


しかし、名無し子は、男のその眼を見ると、言葉で表せないような、畏れにも似た感情を抱くのだった。



「君は、口がきけないのか。」


発することのできない己の声を恨みながら、名無し子は頷いた。


大方、予想はついていたのであろう、名無し子の返事を聞いて、客人は、悲しそうな眼をした。


「実を言うと、私は重一殿の友人でね。君のことは、彼から手紙で伝えられていたんだ。だから、君とは一度、話をしてみたかったんだけれど…。少し残念だったかな。」


でも、と男は、続ける。


「君は、よく働いている。道徳心も備わっているようだ。それがわかったことは、それだけで、会った価値があったと言えるだろうね。」


同情するでもなく、貶すわけでもなく、ただ坦々と告げられた言葉は、名無し子にすんなりと入ってきた。


しかし、名無し子にここまで興味をもつ者がいなかったことで、どうしてここまで声を掛けてくれるのかという、純粋な疑問と、若干の不安が名無し子の中で交錯する。


感情が面に出にくい性格故に、その疑問を客人にぶつけることはできないが、偽りであっても、他人から気にかけてもらうことは、懐かしいような、喜びに似たものを連想させる。



名無し子はまだ、その感情の名前を知らなかった。

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