十一
客人が去ってから七日後、村の民にとっても山村家にとっても待ちに待った祭の日になった。
豊作祈願のためのこの祭は、古来より、大半が巫女が重要な役割を果たす形で現在まで伝わってきた。
巫女は早朝から、何も口にしない状態で、湯浴みに使うような薄く、白い生地の着物を着て、舞台に並べられた奉納物の前で神主と共に祈祷を行う。
日が高くなると、一時、離れとして造られた東屋で衣裳の上から更に白い着物を羽織り、装飾品や稲の早苗を腰につけ、鈴を手に持ち一人で舞台で舞う。
夕刻になると、舞台を降り、神主、その親族、農民の順に酒を振る舞う。
その仕事を終えると、ようやく口に物をいれることができるが、決まって白米とその村で取れた野菜だけを少量しか食べることができなかった。
日が沈み、辺りが薄暗くなると、神主をはじめとする巫女のお付きが、豊作祈願のために編んだしめ縄を持って巫女を先頭に山道へ入っていく。
数刻経つと、巫女以外の者が、昨年のしめ縄を持って山を下ってくる。
巫女は三日間山にこもる。
お付きの者たちはその間、祭火を囲んで祈祷を行う。
三日目の夜、お付きの者たちが迎えに行き、巫女は昏睡状態で戻ってくる。
巫女が戻らなかった場合、大半が山村邸で働く子どもがその捜索にあたり、巫女を見つけ出す。
巫女の体を村に戻すことがすなわち、祭の成功を意味するのである。
それ故、代々巫女を務める者は、清い少女であり、山村の血を継いでいる者であることを条件とし、その中でも神に通じる力の強い者が選ばれてきた。
一重に、巫女の力量が試されるといっても過言ではなかったのだ。
早朝の山村邸では、神主の重一と、巫女である娘が、大勢のお付きの者を連れ、緊張した面持ちで、裏戸を出たところを、名無し子たち小間使いが見送っていた。
名無し子は物心ついて何度か見たことがある光景であったので、特別行きたいといった様子でもなく、日のある内は邸宅内の家事をこなしていた。
家事が一段落つくと、夕刻であったので、集会場へ赴く。
名無し子が空いていた席に座ると、周りにいた農民たちに怪訝そうな顔をされたが、巫女が酒を注ぎにくるとたちまち笑顔が溢れた。
名無し子も甘酒を注いでもらい、ぐいっと仰ぐ。
赤い顔をした酔っ払いに、いい飲みっぷりだと笑われ、名無し子の顔も真っ赤に染まった。




