1話
青年期の話を完全にカット、少年期の話をしばらく書いて行きます。
「死」それは人の肉体から魂が抜け出ること。体温が消え、すべての生体機能が停止すること。
それは人々の解釈である。世界には人々には知られぬ魂を狩る者が存在する。それは肉体から魂を切り取り地獄か、天国へ導く仕事。今日もまた名もない死神が昼夜問わず人々の命を魂を回収する。
人々が寝息につく頃、夜の街空に黒い古ぼけた穴だらけのマントを身につけ暗闇の
色に染まる影が多くの死が溢れる病院の一室に窓も開けることなく通り抜けるように入り込んだ。
それに合わせて部屋の空気が刺すような冷気に変わる。
黒服の男は突然部屋の住人の前に現れ、懐から古ぼけた懐中時計を取り出し
「時間だ」
男は純白のベットに寝転ぶ、酷く老いた老体の前に出ると、どこからか
大鎌を取り出し両手に握り、よく通る声で老人に囁いた。
「あなたの魂を回収に参りました。よろしいですね?」
男の息は白く色を変え、靄を空中に漂わせる。
「迎えが来たようじゃな・・・・・・構わん持って行ってくれ」
男はどこか悲し表情を浮かべ、大鎌を振り上げた。
「死後の貴方に---より良い幸運がありますように」
言葉と同時に大鎌は老人の心臓を貫き、紺青の閃光を上げると
男は大鎌を抜き取る。
しかし、老人の体には大鎌の突き刺さったような傷跡は無く
紺青に輝く球体が突き刺さった心臓のあたりから抜け出るようにして
部屋の宙に浮かんでいる。
男は大鎌を地面に突き刺し、懐から無数の文字が欄列して並ぶ空き瓶を取り出すと
漂う球体に向かって瓶のフタを抜き取りかざした。
男の持っていた瓶が突然空中に漂う球体を掃除機の吸引能力のように
吸い取り、瞬きの間に球体を小さな瓶の中に回収した。
男は瓶の中に輝く紺青の玉をしばらく眺めると懐に収め、黒い古書を取り出し、手でなぞりながら目的のモノを探しだす。
「秋山・龍一、68年の生涯を深夜2時43分---心臓麻痺により終える。罪状無し
魂は天国へ輸送。っか、最後の仕事にしてはベタなやつだったなぁー」
男は秋山と書かれた欄にサインを入れるとパッたんっと本を閉じ、軽く足を跳ねる。
すると男の影が空へ向かって駆け抜ける。
影は空気を裂き、暗黒の広がる空へ何処までもどこまでも登っていく。
男の住む領域、人には見えず、神々と死に触れる者しか訪れる事ができない
空間、生と死の入り交じる暗闇と光の分かれ道。
右は光、左は闇、それらの道を死神は迷うことなく導き死者を天国か地獄へ輸送する。
「右は天国、左は地獄」
男は雲の上に突き刺さるそんな看板を眺めながら右へと足を進める。
真っ直ぐ、男は光の方向へ進み、大きな門の前に到着すると足を止め
門の片隅に存在する小さな建物の中へ入り込むと中に座っている男に声をかけた。
「門番リード、魂を天国へ導きに来た。門を開いてくれ」
椅子に座り灰色の新聞を手にくわえタバコをしながら男は立ち上がり壁に
かかっていた鍵を手に取る。
「死神№2の仕事もこれで最後かい」
「あぁーここまで来るのに二年もかかったからね。本当疲れたよ」
「惜しいねぇーあんたみたいな優秀な死神は世界を探しても滅多にいないからねぇー
まぁーお疲れ様」
男は煙草を咥えたまま扉の小さな穴に鍵を通すと、扉を軽く押し開ける。
しかし大きな扉は開かず、男の押し開いた人一人通れるような窓のような場所が開く。
「んじゃー行ってくわーまぁーあれだ、またこの門を俺が通るような事があればよろしくな」
「あぁー待ってるよ」
門番の男は手を振りながら細目で男の後ろ姿を眺め、どこか寂しげな表情を浮かべると
頭を何度かかき扉の外へと出ていくと、門の扉を閉じた。
男はそれを背に一面真っ白な空間に一本だけ伸びる道を足場に進む。
一刻の無音の空間を経て、男は無数の神々が鎮座する道を進み。
最も地位の高い神の部屋の前へと立ち尽くすと、
「入ります」
言葉と同時に白く無数の絵が掘られた扉が音もなく自動的に開かれ
男はその扉の先へ足をすすめる。
部屋の中には無数の白い女神の石像が一本の通路に立ち並び
来客者を歓迎する。通路の先には巨大な椅子に腰を据える一人の
老賢者の姿が男の視界に映り込む。
男はゆっくりとした足取りで白い空間を進む。そして
老賢者とさほどの距離がなくなった頃、足を止め声を上げた。
「神様---俺はあの時の約束通り46万と4230の魂を回収したぞ。約束通り俺を転生してくれるよな?」
男はこの空間に一度来ていた。それは二年前---まだ男が桑崎・不一
と呼ばれていた頃の事。
彼は肉脂肪の塊だった。身長170センチ体重127キロ。視力両眼ともに0.7
メガネをかけ、年中汗を掻くその姿は中年男性よりも悪く。おやじデブなどと
17歳の彼に言いかける同級生もいるほどに彼は太り容姿共に神に見放された
人生を送っていた。彼の唯一の得意分野はゲームやネトゲーと言った物だった。
7歳の頃ランデブーオンラインを制覇、ランデブーオンラインとは世界中の人々と
シューティング対戦をするゲームである。そのオンラインで不一は7歳という
年齢で数々の大人を負かし、世界一のプレイヤーとして輝いただのだ。
その後、シューティングゲームに飽き、三国志を元とした三国列伝というゲームに
運命的出会いをし、10歳から17歳まで発売された1から6のシリーズを買っては修羅モードを
プレイし、ゲームを極めんとモニター越しにプレイを続けてきた。
そんな彼の運命を変えたのはセブンの発売されたその日、都内で大きな火災事故があった時、
運悪くその火災の起きたデパートでソフトを購入していた彼は目にしてはならない物を
燃え盛る火炎の中目にしてしまう。
それは黒い衣に凍てつく空気を吐き散らす人ならざる存在。
言葉にあわらすのなら、死神、っという言葉が最も適切で彼自身それが死神だと
思えた。そしてその死神が瓦礫の下敷きとなった人間の体から何かを取り出し
瓶に入れるのが見えたのだ。
そこで不一は思わず声を漏らし、その死神と目があってしまう。
死神は一瞬慌てるような様子であたりを確認すると、突然髑髏のような形相で
持っていた大鎌を男の体に斬りつけた。
その瞬間、不一の体は何かが抜け出るようにしてガタンっと地面に力なく倒れこんだ。
彼の意識が闇へ落ち、再び光に包まれた時、彼は白い空間で一人の男を前に
浮かんでいた。体も無くただ、魂の状態で彼は浮かんでいたのだ。
不一には何が起こったのかトンっと理解できなかった。
思い返すようにこの姿になる前の出来事を頭に回らせる。
すると、死神や鎌の事が徐々に思い出され、斬られた事を最後に思い出すと彼の前に
静寂の終りと共に声を上げる老賢者。その姿は長い白ひげに長髪の白髪
知性を纏わすその凛々しい顔立ちは絵本や神話の物語で語られる神その物だった。
「少年よ、死んでみた気分はどうだ?」
老人は表情ひとつ変えずそう声音を吐く。
「やっぱ俺死んだのか・・・・・・」
「あぁー少年は死んだ。しかし、それはこちら側の誤りによって起こった
出来事なのだ。少年が死ぬのは後20年後、肥満による窒息死
少なくとも後二十年は生れきるはずだった。しかし新米の死神
が誤って君の魂を刈り取ってしまった」
「肥満で窒息死って・・・・・・残念な死に方だね」
「そうでもないさ。世界では君以上に残酷な死に方をする人間が物の数ほどいるのだから」
「まぁーそんなもんだよねぇー人生なんて」
「そう落ち込むではない。少年には2つの道を用意してある。
だからこそ我がわざわざお前をここに導いたのだからな」
「2つの道?」
魂となった不一は尋ねるようにしてそう声を上げると老人が杖をドンっと強く
地面を叩き音を上げる。
「まず初めの道はこのまま天国に出向きそのまま転生すること
これは生きていた頃起こした犯罪や人にもたらす幸運を計算し
善悪の数値が引くければ地獄へ高ければ天国へっというふうになる。
基本的に自殺や理由のない殺害は地獄行きの対象となる。親殺しも
同罪である。その他小さな罪を犯しても後にその付けを払えば
天国行きになる。罪を全く犯していない人間は自然と天国へ導かれる事となり
その後転生することになる。だが、少年は20年も死が早まりなおかつ
残念な人生を送ってきたようだからこの神直々にもう一つの道を用意した。
少年よ、それを受ける気はあるか?」
「話によるかな」
「ふむ、最もだ。ならば言うぞ? 少年には46万と4230の魂を死神となって
回収してもらう。もしもそれが回収できたならば、この世界とは違う世界
そこで新たな人生を歩んでもらうこととなる。そして転生のさいに
5つの願いを聞き届けよう」
「その願いってどんな事でもいいの?ゲームの主人公と同じパラメーターにしろとか美形にしろっとか
魔王なんてものにしろとか、なんでもさ」
「あぁ、構わんよ」
「なら---」
それが二年前出来事、彼は驚くほど早く魂を刈り取り上位死神の仲間入りを果たした。
そして№2の称号と共に今日この日、神との約束を果たすべく彼はその場に訪れた。
「この二年で少年は我ら神をも驚く速さで魂を回収し、そしていま最後の魂を我の
前に差し出した。約束は果たそう。一つ---三国列伝に登場する人間のパラメーターを
良い部分だけ受け継いだ状態で転生すること。二つ---転生後の姿は美形で有ること
三つ---世界に存在するすべての武器の使い手で有ること。四つ---意識すれば空を飛べる事
五つ---金には困らない人生で有ること。以下の事でいいか?」
「あぁーそれでいい」
老賢者の言葉に男は頷きそう言葉を放った。
すると、空間に閃光が迸り、男はその光の中へと魂と共に吸い込まれ空間から姿を消した。
魂は世界を超え、時空を超えて、とある世界へ導かれた。
そして、そこで、一人の母体の中へと吸い込まれるようにして入り込み。
・・・・・・・
「陛下! 三人目となる陛下のお子が先ほどお生まれになりました! 陛下!
王妃様の元に急いでください」
老婆のような面持ちの使用人が王室を訪ね、額に汗し目を見開いたままそう声を上げる。
それを聞いて、国王と思しき男が机に広がる書類の上に両手を乗せ、立ち上がると
そわそわしたように左右に動き。
「あぁーどうしよう。あぁーえっと何がいるかな、えっと」
「落ち着きください。陛下そんな姿を子供たちに見られてしまったら
いらぬ心配を子供たちにかけてしまわれますぞ? 今は落ち着き
王妃様のもとへ---」