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背負う者、背負わぬ者

 


「あ、それとビショップ君。まさか高校生ってわけじゃないんだろ?」

 瀬戸の表情が堅くなる。

「なんだ。ばれてたのか。ったく侮れねえな」

 瀬戸は面倒くさそうに呟くと、

「そうだよ。俺は元天使。既に一度、郷へ行ったことがある」

 と続けた。

「やっぱり。通りで若い奴がいるなあってずっと思ってたんだよね。それじゃあ、実際の歳はいくつなんだよ」

「お前に教えたら逆算して郷に何年いたかバレちまうだろ。言わないよ」

「そうか。なら真っ先にここで君を排除するのが得策だな。覚悟しておいてくれよ。全力で君をサークルの外へだしてやるから」

 斉藤の挑発に瀬戸は鼻であしらった。斉藤はじゃあと一言告げて、奥に控える三人のもとへ帰っていった。2人の謎の会話がようやく終わり、桐崎は瀬戸の近くに寄った。瀬戸が郷という所に行ったことがあるという情報しか得られなかった。それに斉藤の言う、勝ちが決まったというのはどういう意味なのか。

「今さっきの実際の歳とかどういう……」

「待て。そのことは後だ。先にやらなければならないことがある」

 瀬戸は桐崎の後方を目で見やった。桐崎だけでなく、取り残された四人もすぐに集まって来ていた。

「おまえ、天使だったのかよ。はやく言ってくれよ。そしたらあの斉藤とかいう奴に騙されずに済んだのに」

 鳥越が早々に不平を言う。

「あれはわざとだ。あいつのために三人の仲間を得る機会をやったんだ。そうしてやれば、あいつのとる行動は限定される」

「そのことなんだが、三人いれば必ず勝てる、みたいなことを斉藤も言ってたけど、おかしくないか。だってこっちには六人いるんだぞ。数からいっても負けてない。同じ作戦をすればいいんじゃないか」

「残念だけど、斉藤の考える作戦が使えるのはジョーカーの所在がわかっているときだけなんだ。今現在、斉藤がジョーカーを持っていることはほぼ確定している。だが、俺たちの中の誰がジョーカーなのかは分からない。だから俺たちは斉藤の作戦をとることができない」

「いや……でも」

「納得できないのは分かるが、まずは聞いてくれ」

 鳥越も押し黙った。皆に緊張が走る。

「斉藤の作戦はおそらくこうだ。斉藤は……」

 瀬戸の説明が始まった。




 あと五分少々でゲームが始まる。瀬戸が言うには、このゲーム、ゲーム開始前のこの15分で決まるらしい。桐崎は瀬戸が一人になったのを見計らって、瀬戸へ、最大の疑問を問いただした。

「なんでジョーカーが俺だと分かった?」

「見ればわかる。ここにいる人間を観察していたら、明らかにナイトのあなただけが平然とした態度だった。そんなに平然とした様子でいられるのは郷のことを全く知らない新参者かスクランブラーだけだ。で、ジョーカーはナイトだと思った」

「それじゃあ、この新参者に郷について教えてくれたまえ」

「郷というのは、言わば、楽園だ。郷ではここの世界と逆の時間が流れているから、郷にいればどんどん若返ることができる。それが魅力の一つだ。その影響で俺はこんな姿に逆戻りだ。年寄りが入郷審査に多いことにも納得」

 本気でいってるのか、と思わず耳を疑った。ここにいる皆がそんなことを信じているとでも言うのか?

「信じられないだろうな。郷に言ったことの無い、ましてや郷について無知な人間にとってはな」

「なぜ信じる?郷を」

 瀬戸はポケットから折り畳まれた一枚の紙を取り出した。角がちぎれている。

「ここにいる人たちはみんな郷の奇跡を体験した人々だからだよ。俺だって経験しなければ郷へ行きたいとも思わなかったし、そもそも郷についても知ることはなかっただろう」

「郷の奇跡?」

「俺の場合は、出会いだった。それも禍々しい死神と」

 紙を広げて瀬戸は深いため息をついた。

「郷には郷を管理する境界人というのが存在するんだ。俺はその境界人に出会ったんだ。それから郷の魅惑に取り付かれた。気がつけばこの境へ来てしまうんだ。それが境界人の狙いだとも知らずに。ああ、あまり脱線するような話はよそう。ナイト、なんで俺がわざわざ親切に郷に関して教えてやってると思う?」

 桐崎は答えなかった。というより答えれなかった。

「郷に取り付かれていない人間を手駒にしておけば後々有利だと思ったからだ」

「手駒って……、嘘でも仲間って言っておけばいいものの」

 瀬戸は、はあ?と大きく手を広げる。

「嘘を言っても仕様がない。郷に魅せられていないプレイヤーは強い。負けても払う代償もないし」

「代償?」

「これだよ。契約書」

 そういって見せて来たのは、先ほどから持っていた紙だった。大きく契約書と書かれている。文面を読んで行くと、


  …………瀬戸 大輔に入郷審査権としてのデポジット1000万ドルの資金提供を約束する。ただし、万が一、受取人である瀬戸が入郷審査において7人の天使に選出されなかった場合、デポジット料金加えて500万ドルの請求を瀬戸に課す。以上に関して嶺谷及び瀬戸の両者が同意の上、効力を発する。


「何だこれ……」

「入郷審査を受けるまでに俺は既にある人物から多額の借金をしてこの場に来ている。元天使、天使というのは郷へ入ることが許された人間のことだ。 元天使である俺がこの借金だから他の奴はもっと多額の借金をしているはずだ。それほど魅せられているんだ、この郷に。ナイトもおそらくここに来れたということは、誰かの推薦があったんだろう。生憎、本人には自覚が無いようだから入郷審査に落ちても金を請求されることはありえない。とまあ、つまり、リスクのないお前をな・か・まにしたい俺の気持ちもわかるだろ?」

「そんな……命懸けで……」

 そりゃあ、平常心を保てるはずはない。1000万ドル、だから1億円を抱えてゲームを戦っている瀬戸のこの冷静さは、恐ろしい。確かに入郷審査どころか余興で敗退するわけにはいかない理由が嫌なほど分かってしまった。

「もうそろそろ始まるな。期待してるぞ、身軽なナイトに」

 重荷を背負わない桐崎は、皆にとって身軽なナイトに違いない。




 佐原(ポーン)はゆっくり深呼吸した。冷静になれ。落ち着け。ここで消えるのは2人だ。余興で瀬戸の戦略にのっかてれば大丈夫だ。斉藤を沈めれば、入郷審査へ進める。

「ポーンさん、ちょっといいですか?」

「あなたは鳴門咲ダークさん?」

「そうです。さっきの瀬戸さんの話で聞き逃しちゃったところがあって……」

 鳴門咲はか弱そうな声で言った。なぜこんな女性が郷にいるのか、佐原には全く理解できなかった。佐原は父の巨大な財力を駆使してようやく今回は入郷審査権を手に入れることができた。よほどの執念と野心が無ければ手に入れることは難しい。この女性には全くそのようなものを感じないから余計気になってしまう。

「斉藤さんがスクランブラーでしたっけ?あれって、どういう意味ですか?」

「ああ、そのことか。元天使の瀬戸によると、必ず境界人が一人ゲーム中にプレイヤーとして混じっているらしい。その境界人はゲームが極度に滞ったりするのを防ぐために予めスクランブラーと呼ばれる起爆剤となるようなプレイヤーが参加していると瀬戸が言ってた。それで、今回の場合は斉藤がスクランブラーだと瀬戸は推測しているんだ」

「なるほど」

 一々首を縦にふって熱心に人の話を聞く鳴門咲にまた佐原は困惑する。なぜ……。

「どうしてダークさんは郷へ?」

「えっ、わたしですか……えっとそれはですね……」

 また縮こまっていく鳴門咲の様子に、明確な理由もなしにここに来たのか、と首を傾げた。

「実は、止めに来たんです」

「止めに来た?」

「はい。そうなんです。もともとわたしって………」

 ブーーーーンという大きなサイレンの音が鳴門咲のか細い声をかき消した。サイレンが鳴り止むと、屋敷の二階から、成瀬が姿を現した。

「時間ですね。いよいよ始まります。それぞれの思惑、戦略あると思いますが、余興として我々がしかと見受けさせていただきます。それでは、余興、クローズドサークルを開始致します」

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