第二話:出会いから訪れる恋…
和輝が真希と出会ったのは高校一年生で同じクラスになったときだった。
最初は、別に仲がいいわけじゃなかった。
席が近いわけでもないし、委員会が一緒というわけでもなかった。
その二人が初めて会話を交わしたのは、修学旅行のときだった…
はじめて乗った飛行機の中で和輝はガチガチに固まっていた。
べつに高所恐怖症というわけでないが、揺れたりするたびに
「おわっ!」
とか言ったりしたものだった。
友達が隣でクスクス笑っていた。
そして、逆となりには真希…綾小路真希が、付属のイヤホンで音楽を聴きながら、笑っていた。
和輝はちょっとムッとして言った。
「綾小路…さん?何がおかしいんだよ?」
真希はイヤホンをとって笑いながら言った。
「いや、何でもないよ!ただ、結構ビックリするから、こっちがビックリさせられちゃった!」
和輝は今度は恥ずかしくなった。
今まで綾小路さんの顔をしっかり見たわけではなかった。
目を合わせたら気づいた。
そう…綾小路真希はかなりの美人だった。
肩に軽くかかるくらいの綺麗な髪の毛。
あまり膨らみのない胸。そして、笑顔…
すべて和輝を虜にしてしまった。
真希はボーっとしてる和輝の肩を叩いた。和輝は不意に現実に戻ってきた。
「あの…さ、大丈夫?目がとんでたよ。」
和輝は軽くせき込んで、声がうわずってしまったが、しっかり答えた。
「いや、なんでもない…です。えっと…綾小路さんはさ…」
綾小路真希は一瞬顔をこわばらせてはっきり言った。
「あ、ごめん。私のこと綾小路て呼ぶのやめてくれない?…あんまり好きじゃないからさ。綾小路って…」
和輝が不思議な顔をしていたから綾小路真希は付け加えた。
「私の家はね…お金持ちなの…」
和輝は一瞬、嫌味かと思ったが、表情が絶対違うことを表していた。
「お金はあるけどね、愛がないのよ。」
「はい…?」
「そのまんまの意味だよ。私のことなんてなんも考えてないのよ…。世間体とか…」
和輝は綾小路真希が俺より絶対苦労してると思った。
「あっ、初めて話したのに、こんなこと言ってゴメン!」
和輝がそれを聞いて、やさしい娘なんだな…と思った。
こうして、綾小路真希と木村和輝が初めてまじわる修学旅行が始まった…
飛行機が北海道の新千歳空港に着く頃には、酔いもなくなっていた。
それは、綾小路真希のお陰であろう。
飛行機に乗ってる間も横目でチラチラと綾小路真希の顔を見ていたが、見れば見るほど端正な顔だった。
音楽を聴いてるときは、ショートヘヤーが軽くなびき、二重の目は静かに閉じていた。一回、綾小路真希がパチリと目を開いた時、和輝は慌てて視線を逸らしたものだった。
…多分それは綾小路真希にはバレてたのだろう。
それを裏付ける証拠に顔が真っ赤だった。
何となくその後綾小路真希が笑っていたのを見ると、余程挙動不審だったのだろう。
そのあとも幾度も横目で見ていた。…もう好きだった。
新千歳空港のバスターミナルから、札幌市内に向かった。
綾小路真希のバスの座席は和輝の斜め前で、中学から一緒だった、桜 亜弥と話していた。
桜は綾小路真希とは逆で髪の毛はロングで化粧が軽く施してあった。
その二人はなんかいいコンビみたいで、普通に話していても漫才みたいに聞こえたから、和輝は楽しかった。
時々、窓ガラスに頬杖をつきながら笑っていると、綾小路真希は時々振り向いた。
和輝はドキッとして慌て、流れゆく新緑を見つめた(つもり)が、綾小路真希はトテトテと歩いてきて、隣に座り、小さくこう言った。
「ね、ね!このバス結構揺れてるけど大丈夫ぅ?…怖くない?ふふ」
和輝はドキドキしていて、最初はどういう意味かはわからなかったが、理解したときはすでに、真希は自分の席に戻っていた。
ハッとして、ジロッと見つめたら、あかんべーをして笑っていた。和輝はなんか悔しかった。
「ちっ、俺の気持ちも知らないで…はぁ〜…しっかし、踊らされてる気がすんだよなぁ〜。」
小言で言った。
すると、後ろから突然携帯で叩かれた。
神崎 遊だ。
「おい!なにすんだよぉ〜。いってぇなぁ〜。てか、お前の携帯は叩くことに対してスペックいいな。」
神崎は笑いながら、隣に座ってきた。左耳にはピアスが光っていた。
「どーよ?バスの中は怖くねぇか?」
さすがに、疲れてしまった。
「お前、同じこと言ってんじゃねぇよ。」
「あん?誰と?」
一瞬、はっとして…いかにも自然に、
「いや、なんでもないよ。てか、お前、タバコ見えてんぞ。」
神崎ははっとして急いでタバコをポケットの奥に詰めた。
「大体、修学旅行の時にタバコ持ってきてどうすんだよ?すえねぇだろ。」
神崎は笑いながら、
「これがねぇと、おちつかねぇの。わかんないかねぇ?」
「俺、タバコすわねぇもん。臭いし、ガンになりたくないしね。」
神崎はため息を吐いて、
「そんな先のことばっかり考えてもしかたねえよ。今がよければいいんだよ。」
すぐさま、
「俺はそうは思いませんね。」
神崎は
「あっそ」
というと席に戻った。しばらくして和輝はまた真希を見た…