第一話:幸せな日々…
「なんでこんなことに…なったんだよ…。なんで…?…ちくしょう…なんで…?」
そこには愛する人を失った悲哀の男が公園のベンチで夜空を仰ぎながら涙を流していた。
すべてを失った男は抜け殻のように生気を失っていた。
この公園は、この時間帯、会社員や学生の帰宅や、バンドを組んでいるであろう若者達で賑わっていた。
そんな中悲しみを抱く人は少なからずいるが、ただ、言えることは、間違いなく今この全ての人の中で絶望の度合いが高いのはこの男だった。
確かにそれは多くの人間からすればおかしいかもしれない。
しかし、少なからずこの男はそう思っていた。
涙はもう出なかった。
枯れてしまった。
ただ、悲しいとだけしか考えられなかった。
この世界が全てを嫌いになった。
この男の近くを通ったものはどう思っただろうか、それは男が不意に考えたことだった。
この男の名前は木村和輝。
この悲哀のストーリーの主人公… 二週間前…和輝はダンボールの中から小・中学校時代のアルバムのほこりをはたいていた。
和輝は静かにアルバムを開くと、自分の幼少時代から青年時代までを振り返っていた。
そこには和輝と一緒に写っている女性がいた。
みていて和輝は微笑ましくなった。
ついつい新しく買った家を見渡してうれしくなった。その時…
「ねぇねぇ、なにつったってんの?…怪しいよ」
和輝が振り返るとそこには、笑顔の美しいショートヘヤーの女性が買い物袋を抱えて立っていた。
「なんだ、真希か…びっくりさせるなよ…」
「あはは!ごめんごめん。てか、なにやってんの?…これ、アルバム?なっつかしぃー。どうしたのこれー?」
「あ、ああ。ついさっきダンボール開けたらさ、あったんだよそれ…なつかしいよな?ほら、これなんか俺たちの初デート記念で遊園地で撮った写真じゃん。」
そこには、ぎこちなく、ただ、しっかりと強く手を握りしめあった二人が笑顔を称えていた。
「ホントだ!なつかしいねっ!あっ、覚えてる?この日さ、和輝ー私に指輪くれたよね。嬉しかったな…すごく。」
和輝はちょっと照れくさくなり、コホンと言ってから、
「覚えてるよ…あの時、真希が俺のことどう思ってたかはわからないけど、俺は婚約指輪の…つもりだったんだよ。」
真希はちょっと目をパチクリさせて、また、アルバムに目を降ろして答えた。
「うん、わかってるよ。私も嬉しかった。だから私たちの結婚指輪…これだよね。どんな高価な指輪より大切だから。」
和輝は真希のこういう部分に惚れたのかもしれない。
思い出を大切にしてくれる。
俺のことを愛してくれる。こんなとこに惚れたのだ。
「そっか…ありがと。大切にしてくれてて。俺のことも、この指輪のことも…。」
和輝はそういうと真希を抱き寄せた。
真希はびっくりしてアルバムを落としたが、構わず強く握りしめた。
「和輝…どうしたの?痛いよ…。」
和輝はちょっと力を緩めて、優しく言った。
「真希……愛してる。絶対、真希、お前を離さないよ。幸せになろうな…。愛してるよ…」
真希の鼓動が速まったのはすぐにわかった。和輝はもう一度強く抱きしめた。
「和輝……私も…。あなたを愛してる…。だから、一生そばにいてね。絶対だよ…!私か死ぬその時まで…」
和輝は真希の言葉に一瞬不安を覚えた。
振り払うかのように、強くキスをして言った。
「俺…お前に死なれたら生きていけないよ…だから、死ぬとか言わないでくれよ。な…」
真希は優しく目を瞑り、優しく言った。
「大丈夫…私、和輝をおいて死なないよ。だから、そのかわり…私をちゃんと愛してね。」
「今よりも?」
「うん。今よりも…!」
和輝は軽く、しかし、しっかりと頷いた。そして、肩をつかんで離した。
「…腹ヘったな。とりあえず飯にするか!」
真希は買い物袋の中から、色とりどりの野菜を見せて、
「じゃあ、今夜は気合い入れちゃおうかな!ドリア作るからね。」
「なぁ、ドリアとチャーハンてあんまり違わないよな?」
真希は一笑して、台所に向かった。
和輝は周りに散らばるダンボールを一カ所にまとめて、また、アルバムを開いた…