背中合わせ
盛大に舞った土煙はようやく収まってきた。神田惣一は軽い落胆の溜息を吐くと、土煙の中に入っていった。
土煙は秋葉巧が起爆した指向性爆弾によるものだった。
巧は、土を舞い上げ不可視であるはずの真蛇の軌跡を確認し、かわすつもりだったのだろう。
だが、そこで巧が見たものは絶望だったに違いない。
真蛇は、網の目のように隙間なく巧に迫ったのだから。大きくても10cm四方の隙間ではかわすことなど不可能だ。
「ああ、残念だな。能力も、人柄も。彼とは仲良くなれると思っていたのに」
土煙は次第に晴れ始める。
そこに、巧の姿はなかった。斬殺体もない。
あるいは自身の起こした爆風で消し飛んだか、惣一はそう思った。
惣一は、立ち止まった。
そこで背中に軽い衝撃を受けた。
荒い息、異常に高い心音を背後から感じる。
背中合わせに、秋葉巧が立っていた。
<<巧サイド>>
俺は身体を預けるように神田の背中に自分の背中を合わせた。
呼吸を整えるために大きく息を吸う。だが、うまく吸い込めずにむせる。
「大丈夫? なにか苦しそうだけど」
「だ、だい、だいじょうぶ、だ。じきに落ち着く」
背中合わせのまま、神田は動かない。俺も、寄りかかったまま動かなかった。
「それじゃあ答えてもらおうかな。どうやって真蛇をかわしたんだい?」
俺は胃の奥から這い出してくる塊を吐き出して、答えた。
「指向性爆弾で地面を削って穴を作って、そこに隠れた」
「ふ、無茶するね。いくら指向性といっても地面に当てれば爆風は跳ね返って君を襲うだろうに」
「ああ、おかげで俺の身体はぼろぼろだよ。自分で感心してる。よく立ち上がれたってな」
俺の身体は熱を含んだ大量の土砂を浴び、土と血に塗れている。
大量の土砂の中には当然石も含まれている。
爆風は俺の肌を焼き、爆圧で砕けた石は俺の皮膚と肉を裂き、骨を砕いていた。
「それで、どうするんだい? なにか、放っておいても死んでしまいそうだけど」
「俺としてはおまえがこのまま逃げてくれれば助かるんだけどな」
「ああ、そうも行かないね。仲間にもならず、僕の能力の正体も知られている。それに、安いプライドだと思うけど、真蛇も破られたままだしね」
「そうか、そうだよな。それじゃあ続けるか」
「その身体で? さっきからちっとも息が収まってないじゃないか」
「気遣ってくれるのか。悪いね」
「気にすることはないよ。僕たち、友達だろ? ああ、メルアド交換がまだだったね」
俺たちは背中合わせのまま笑いあった。
大きく息を吸い込む。今度は成功し、血管を通して体中に酸素が行き渡る。
俺は、ゆっくりと息を吐いた。
「さて、待たせたな。そろそろ始めよう」
「この体勢で?」
「ああ、悪いけど、このまま決めさせてもらうぜ」