ディメンション
<<巧サイド>>
俺は再び時伏せを発動した。
スローモーションの世界、神田は真蛇を横薙ぎ一閃に払う。俺の速さに対抗するためか、それは俺が間合いに入る前に放たれた。
俺は刃が眼前を過ぎ去るのを待って神田に迫ろうとした。
その時、フラッシュバックが起こった。時詠みだ。
止まれない!
俺は転げるようにして今通り過ぎた真蛇の剣閃を潜り、そのまま転げて神田の横を通り過ぎた。
そのまま大の字に倒れる。
時伏せは解除され、俺は荒い息と共にむせ返った。
「かわしたんだ。そうか。速いだけではないと思ったけど、これは、未来視、かな?」
俺は激しい頭痛と軋む身体に耐えて半身を起こした。
「この、詐欺師が! なにが最速対最短だ!」
「あははは! わかったかい?」
神田惣一、『愚者』の称号を持つ白金最高幹部のひとり。
こいつは、次元を操るのだ。
2次元の世界、紙の上に鉛筆を立て、A地点からB地点に鉛筆を走らせるとき、紙の上ではどのような軌跡を描こうとも鉛筆の後が残る。
だが、3次元、次元を超えることが出来るなら、鉛筆は紙から持ち上げ、軌跡を描かないでB地点に到達することができるのだ。
しかも、次元を超えている間は時間軸にも左右されない。これが瞬間移動の正体だ。
そして、次元に亀裂を作る、絵画にカッターで切れ込みを入れるように物理的な防御は不可能、あらゆるものを切断する真蛇の正体だ。
「本当はこれも必要ないんだよ。名刀ではあるんだけどね」
神田は日本刀を鞘に収め、俺に放った。俺はそれを受け取る。
神田は軽く手を上げた。
「今までこの正体がばれることなんてなかったんだけどね。いや、さすがだよ。でも、これを破る方法は見つかったかな?」
神田は手を振った。
時詠みが発動し、俺は反射的に身を屈める。
俺の頭上を、不可視のなにかが通り過ぎる。
背後から森の揺れる音が響いた。次元の亀裂は俺を通り過ぎ、俺の背後の木々を切断したのだ。
「ふーん。君は中途半端には倒せないようだね。じゃあ、これならどうかな?」
神田は手を目の高さに上げた。
ガンガンに鳴る頭痛、視界は赤く染まり、時詠みの警報音が鳴り響く。
俺は、包囲されていた。
180度、次元の亀裂は隙間なく俺を囲む。まずいね。今度は逃げ場がない。
「これが、『愚者』の能力、真蛇だよ」
俺はポケットからあるものを取り出した。
義手だ。マービン・クルードの持っていた指向性爆弾。
「ところで、巧くん。真蛇の意味を知っているかな?」
「悪いな、答えている余裕はなさそうだ」
「それはそうだ! それじゃあ勝手に喋るよ。真蛇は能面の一種。女の鬼の面でももっとも罪業深いものなんだけど……」
神田は指を鳴らした。亀裂はゆっくり俺に迫ってきた。
「その意味は、嫉妬だよ」
俺は、指向性爆弾を、使った。