『今』
<<巧サイド>>
「12番戦争の再開」
俺は笑みを消し、神田を見た。
「本気で言っているのか?」
「うん。僕たち白金は黒金と分かれてしばらくは活動休止状態になった。でも、その間にゆっくり見学させてもらったんだよ。黒金と人類がなにをしたのか。結果は世界の歪みを大きくしただけだった。もう十分だよ。そろそろ、政権を交代してもらおうと思ってね」
「それで、兵隊はひとりでも多いほうがいいってことか」
「質の高いのは特に、ね」
「出来るのか? マイノリティであるお前らに」
「言ったろ。僕たちにしか出来ないって。群体の中に個を埋没させたような連中には絶対に不可能だよ。僕たち、僕と君は少数派であるがゆえにそれとは無縁だろ?」
視線が絡む。
「それに、僕たちの敵は実はマジョリティを形成する差別者じゃあないんだ」
「差別を斡旋するプロモーター、か。それなら確かに人類の、数による絶対的優位性は崩れるな」
風に揺れる森。雲はなく、月は燦々と輝いている。
俺は、神田に答えた。
「俺は白金にはならない。悪いが断るよ」
神田は眉を寄せ、口角を下げた。
「理由を聞こうかな」
「俺は、家だろうが組織だろうが、それこそ世界だろうが背負うのはごめんだ」
「君は世界がこのままでいいと思っているのかい?」
「いや。そう考えているのは先が見えない楽観者か諦めている悲観者くらいだろう。俺はどっちでもないんでね」
「それなら……」
「俺は俺なりに世界と向き合うよ。俺の守りたいもののためにね」
「守りたいもの?なんだい?」
「『今』」
神田は真顔になる。俺はそれに笑顔で答えた。
「もちろん歪みを肯定する気も泣き寝入る気もない。それをしたら今を続けられないからな」
神田の表情が崩れる。俺は、言った。
「俺は今を続けるために歪みと戦うよ」
「っふ、僕は『愚者』って呼ばれているけど、君のほうがその称号に相応しいね。君は楽しませてくれるよ。それがどれほど難しいことかわかっているのかい?」
「ああ。お前らのしていることと同じように人生をかける価値のあることだろ?」
「そうだね。なら、その今を破壊しようとしている僕は……」
敷地内は一気に殺気で満ちた。
俺も臨戦態勢を取る。
心音を数える。舌戦のおかげで大分落ち着いた。
俺は、全身に酸素を送り込み、吐き出した。
「ああ、お前は、敵だ!」