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矯正

<<巧サイド>>



 耳鳴りが始まり世界が凍る。

 時伏せを発動した俺は神田に肉薄した。

 上段から振り下ろされる真蛇、俺はそれを潜り抜け、拳を神田に叩き込む。

 しかし、拳は空を切り、神田の姿は消えていた。

 俺は反射的に前転した。今まで俺の頭部があったところを真蛇が切り裂く。

 俺の背後に瞬間移動した神田が斬りつけたのだ。

 こいつ、時伏せに対応してやがる!

 俺は、距離を取って、一度時伏せを解除した。

「速い! 目では追えないよ!」

 神田は馬鹿にしているように手を叩いて喜ぶ。

「今のが最速かな?それとももっと速くなるのかな?」

「そうがっつくな」

 俺は胃からこみ上がってくる血溜りを吐き出した。

「ああ、楽しいね。君の最速対僕の最短。どっちが速いかな?」

 俺は軽い深呼吸を繰り返して息を整える。

 神田は、その様子を見て真蛇を担ぎ、肩の力を抜いた。

「うん。そろそろ本題に入ろうかな。巧くん、どうだい? 白金に来ないかい?」

「なんの冗談だ?」

「いや、本気だよ。僕は君のことが気に入っているし、手を合わせてみて君の実力はわかった。君ならサバトの一員に推薦してもいい」

 サバトは白金の意思決定機関だ。22人の最高幹部と56人の評議員。2人の議長で構成されている。

「君も、この世界の歪みに気付いていないわけではないんだろ?」

 俺は黙って神田を見た。神田の口元には笑みは浮かんでいない。

「君も家族に売られるっていう経験をしているわけだし、僕たちストゥレーガ自身が被差別者だ。形式的には黒金は人類側とは和解しているけど、マニゴルドは人類側の全面的な支持を受けて活動している」

「それは、否定しようのない事実だな」

「差別を内包する世界が正しいわけないだろ?」

俺は押し黙る。

「その歪みは世界を侵食している。自然破壊やエネルギー問題に経済格差。それらは全てその歪みによる弊害だ」

「いきなり話を大きくしたな。なにが言いたいんだ?」

 神田は目尻に笑みを浮かべ、ふっと軽く息を吐いて言った。


「世界の矯正」






<<美異サイド>>



「ふふ、あなたは、昔と変わらない白金の『世界』だわ。不敵でふてぶてしく、そして、強い。最強で最悪のストゥレーガ」

 ゲルトルートはゆっくりと階段を上りだした。

「心外ですね。これでも殺す相手は選んでいますよ」

「ねえ美異、いい加減、白金に戻ってきなさい。あなたは黒金として世界の歪みを肯定しているわけではないのでしょう?」

「私には極めてどうでもいいこと、ね」

「世界の矯正には正義を布くことが必要なのよ。それには、あなたの力がいるわ」

ゲルトルートは足を止めた。

 一段上、階段の踊り場の底が抜ける。美異の超重力だ。

「よく喋りますね。その舌を引き抜きましょうか?」

「美異、よく考えて。なにが正しくてなにが間違っているのか。あなたならわかるはずよ」

 美異は小馬鹿にするように笑った。

「学校の先生の受け売りですけどね、正義の名の下に行われたことは碌なことがないそうですよ。聖地解放を謳った十字軍は虐殺を、大東亜共栄圏を謳った日本帝国は支配を、自由を謳ったアメリカは倫理と経済の崩壊を……」

「十字軍は東方への交易路を築き日本帝国は東南アジアの民族自決を即したわ。悪いことだけではないのよ」

「取って着けたような弁論ですね。それではアメリカは?」

「我々、ストゥレーガを生んだ」

 美異は一瞬だけ呆けた顔になり、狂ったように笑い出した。

「ああ、なるほど! そういう見方もできるのね! 確かに歪んだ世界が耐え切れずに発狂したきっかけはアメリカの金融崩壊ですものね」

「もっとも、それ以前にも予兆はあった。過ぎて初めて気付けるような、ね。今も同じよ。私たちはきっと予兆を見逃している。なにかが起こる前に行動しなければならないのよ」

 美異は笑いを収めると、ゲルトルートの銀色の作り物めいた瞳を見下ろした。


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