オープナー
<<巧サイド>>
一撃でセラミックソードは半分の長さにされる。セラミックソードを両断した真蛇はそのままの速度で軌跡を変え、俺の首に迫った。
俺はそれを見切り、数ミリの差でかわしきる。
神田は手を置かずに俺を攻め続け、俺はかわし続けた。
空気を切り裂く音が耳を過ぎ、かわし損ねた突きが俺の頬を削いだ。
俺は大きく後退し、間合いを取った。
「その日本刀、なにで出来ているんだ? 最新のセラミックソードがまるで紙だ」
「少しは楽しんでもらえているかな」
「まだまだだね」
俺は間合いを詰めた。
制空権が触れる寸前、俺は、持っていたセラミックソードを、落とした。
それを見てわずかに隙を作る神田。
俺はセラミックソードが地面に落ちる寸前に蹴りつけた。
セラミックソードは神田の顔面に飛んでいく。
神田はわずかに身を反らし、それをかわした。
崩れるバランス、俺は神田の手首を掴んだ。
「……それで、どうするつもりだい?」
「そうだな。こんなのはどうだ?」
神田は開いた手で俺を斬りつけてくる。
瞬間、俺は神田を回した。
仰向けに倒れる神田。その首に俺は足刀を落とす。
だが、足刀は神田には当たらず、地にめり込んだ。
「あ、はは! すごいすごい! 倒されたのなんて『愚者』の称号をもらって以来、初めてだよ!」
神田は、俺から離れた背後に立っていた。
「瞬間移動、か」
「うん。僕は他に芸がなくてね。これでも苦労しているんだよ」
俺は頬から垂れてくる血を払った。
神田は、ゆっくりと上段に構えた。
真蛇の刃が月光を写した。
「それじゃあそろそろ君の能力も見せてよ。時伏せ。ずっと楽しみにしていたんだ」
……心音を数える。大丈夫、使えるな。一気に決める!
「ああ、そうだな。新橋のところに行かなけりゃならない。そろそろ決めさせてもらうぞ」
俺は、一度大きく息を吸い、時伏せを発動させた。
<<美異サイド>>
ゲルトルートは美異の後を追った。
美異は着かず離れずにゲルトルートの先を進み、時折挑発するようにものを投げる。
投げられるものは、花瓶、砲撃で崩れ落ちた壁の破片、またはイスやテーブルなど様々だ。
重力を無視して投げられるそれらは直撃すれば致命傷を被るだけの攻撃力を持っている。
ゲルトルートは歯噛みしながら美異を追う。
「どこまで逃げる気? まさか本気でものを投げて私を倒せると思っているわけではないでしょうね」
白いワンピースが踊った。
美異は階段を駆け上り、2階に上がり物陰に隠れる。
美異は携帯電話を耳に当てた。
『みいちゃん、ありがとう。私たちは無事寮の外に逃げられたよ』
美異は安堵の溜息を吐く。
時間稼ぎは成功した。
後は目の前の敵を殺し、巧を助けるだけだった。
「見つけた!」
美異はその声に目を見張った。
目の前にゲルトルートが立っていた。
美異が警戒していた階段を使わず、ゲルトルートは自身の脳内麻薬を分泌させて身体能力を向上させ、一気に吹き抜けのホールを飛び越えたのだ。
美異は咄嗟にゲルトルートの顔の前に右手を突き出す。
ゲルトルートの『裁き』は見られた箇所を破壊する。その中でも、目を見られればそこから脳内を壊されるのだ。
それだけは避けねばならない。
美異の右手は砕け、上腕までが一気に爆ぜた。
美異は砕けた手を振る。
血飛沫がゲルトルートの顔にかかり、視野がわずかに塞がれた。
瞬間、ゲルトルートは後ろに飛び、階下に落ちていった。
今までゲルトルートの立っていたところは美異の超重力によって陥没している。
「やってくれましたね、ゲルトルート。このワンピース、お気に入りだったのに」
美異は傷ついた右手には目もくれず、自身の血で赤く染まったワンピースを見た。
「まだ余裕があるのね。でも、その傷では今までのようには逃げられないんじゃない?」
美異は階下にいるゲルトルートを見下ろした。ゲルトルートは美異を見上げる。
「逃げ回るのは止めたの? それが正解よ」
「ええ、これで私も少しだけ本気を出せますから」
ゲルトルートは目を細めて美異を見た。
「……わかっているの? あなた、今、私の『裁き』の射程内に入っているのよ」
「それがどうかしましたか?」
美異はなにを聞いているのか、とでも言うようにくすくすと笑う。
それを見てゲルトルートは一時戦闘態勢を解除した。