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フェイカー

 フェイカーとは遺伝子操作によって人工的に造られたストゥレーガだ。

 フェイカー(偽者)という言葉には、ストゥレーガに対する軽蔑が含まれている。


 ストゥレーガの本格的な研究は12番戦争が始まる前後から行われているが、現在に至るまで飛躍的な進歩が見えないのが現状だった。

 理由は、ストゥレーガという存在自体が秘匿にされているため大っぴらな調査が行えないことや、サンプルであるストゥレーガが希少であることなどが上げられるが、その最大のものは、ストゥレーガをカテゴライズ化することが出来ないからだった。

 ストゥレーガは、分類するには格子となる前提がまったくない、あるいはありすぎた。

 ストゥレーガ個人個人に相関性はなく、それぞれが科学では証明できない理論によって能力を使っているのだ。

 

 そんな未熟な知識の中でフェイカーの作成は行われた。

 膨大な失敗とわずかな成功。

 中でも『アーペレジーナ』の称号を持ち、生まれつきのストゥレーガにも劣らない能力を保持する馬場久菜はフェイカーの成功例とされていた。




 ゲルトルートは挑発するように一歩前に出た。

「私に言わせれば、あなたはフェイカーの成功例というより、フェイカーの中にたまたま生まれついたストゥレーガが紛れ込んでいたんだと思うけど」

「それを知っていて私をスカウトするなんて、よっぽど白金は人手不足なのね」

「自身の生き方なんて強制されるものじゃないわ。あなたが白金に来るならいいきっかけになるんじゃない? それに、白金が人手不足というのも本当。世界は悪意に満ちている。それを正すのに手はいくらあっても足りないのよ」

「まるで正義の味方のような言い方ね」

「ええ。もちろん私たちはそのつもり。世界はもはや自浄では助からないほどに穢れているわ。ゴールドのパンデミックは自然界の人間に対する最後の抵抗だったのかもしれないわね。あれによって一時的に収まった自然破壊の勢いは再び世界そのものを壊しにかかっている。まず、両生類が死滅し、鳥類、爬虫類が絶滅の危機に瀕している。最後に影響を受ける哺乳類も現在、如実にその影響を受けている。それがストゥレーガよ」

「それは違うわ。ストゥレーガは一部のダーウィニストが言うようにゴールドによって新たな耐性を得た新種ではない。人類生誕以来、確実に、低確率ながら存在してきたはずよ。ストゥレーガの能力は遺伝しない。ストゥレーガの子供はストゥレーガにはならないもの」

「ええ、その通り。私たちストゥレーガは1万人にひとり、10万人にひとりの確率で存在してきた。それは、変種ということよ。もちろんそれは非難されることではないし私たちはその差別に対して戦ってきたわ。その私たちが如実に増えてきていること自体が人類の生態系の異変を表していると思わない?」

 久菜は大きく息を吸うと、立ち上がり、ゲルトルートの前に立った。ゲルトルートは訝しげに久菜を見た。

「確かに、あなたの言うことには一理あるかもしれないわね」

 久菜は片足で前に出て、月明かりに照らされた。

 ゲルトルートは眉をひそめた。

 久菜の周囲には、無数の黒い埃のような物体が浮かんでいた。病原体のコロニーだ。

 それは、ひとつひとつが蜂のように独自の軌道を描き、ゲルトルートに踊りかかった。

「こんな切り札を残していたの、『アーペレジーナ(女王蜂)』!」

 コロニーのひとつがゲルトルートの腕にぶつかった。コロニーは霧散し、その後には黒く変色した腕が残った。

 腕に残った黒い染みはゆるやかに広がっていく。

「仕方ないわね!」

 ゲルトルートは久菜を睨んだ。

 途端、久菜の胸は爆ぜ、膝を突いた。

 コロニーはひとつ残らず空中に霧散し、腕の染みは広がりを止める。

「さすがに焦ったわ。あと一秒遅かったら全身を蝕まれていたかも。おしかったわね」

 久菜は苦しそうに荒い息を吐く。

「今、楽にしてあげるわ」

 ゲルトルートは久菜を見下ろした。

 その時、間の抜けた放送が入った。

「あーあー、ぐっとモーニングベトナム。センドモアマネー。アイラブニューヨーク。みんな、聞こえるかな? 僕は白金の『愚者』、神田惣一だ。君たちの作戦室は占拠したよ。美人のメイドさんと一緒にね。今から作戦室まで来てよ。それと、ゲルトルート。言ったよね。黒金は殺すなって」

 ゲルトルートは力を抜くと、肩を竦めた。


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