『ネクローシス』
「明彦、そっちから来たよ!」
「ああ、わかってる!」
渋谷明彦はテラスの手すりを越えて侵入してくる騎士に向かっていった。
振り回される剣を潜り、騎士の胴体を手のひらで押した。
ずるりと、騎士の上半身は下半身からずり落ち、テラスから落ちていった。
下半身の切断面は、腐っている。
明彦は、細胞を異常促進させて対象の身体を腐らせているのだ。
明彦は手を振り、腐汁を払い落とす。
「ちょっと! その臭いはなんとかならないの!」
「肉は腐りかけがうまいっていうぞ」
留美はにやりと八重歯を見せた。
「お肉はやっぱりちまちまとは駄目だね。丸呑みが一番おいしいよ!」
踊るように飛び跳ね、騎士を3人まとめて赤黒い胃袋に包む。騎士たちは、生きながら消化された。
3人の騎士が同時にテラスに踊りあがる。
「舞台には上がらないで!マナーの悪いお客さんは退場だよ!」
テラスに上がった3人のうち2人は留美の餌食になり、1人は明彦に腐らされる。
だが、別の場所から別の騎士がテラスに上がってきた。
「ったく、きりがないな!」
「マニゴルドは物量戦術しか芸がないからね。一発屋の芸人は苦労するよ」
留美と明彦は背中合わせで立ち、一息吐く。
その間にも騎士は続々とテラスに満ちてくる。
その数が20を超える頃、それは起こった。
留美たちを包囲し、輪を縮める騎士たちのひとりの足が止まった。
他の騎士たちは、足並みを乱したその騎士を見た。
その騎士は、ゆっくりと左右に分断された。
騎士の立っていたところには、下から縦30センチ、長さは2メートルほどの長方形の鉄板が生えていた。
その鉄板は、鮫の背びれのようにテラスを徘徊し始めた。
「明彦、よけるよ!」
留美と明彦は鉄板を避けるために左右に飛んだ。20人以上いた騎士たちは、鉄板に切り刻まれて命を落としていった。
留美はテラスから飛び降り、下にいる男を見た。
「君、誰?」
右手が鉄板になっている男は、上に突き刺している鉄板をゆっくりと引き抜くと留美を見た。
背の高い、痩せ型の男だ。
日本人ではない。
男は下卑た笑いを留美に見せた。
「なんだよ、助けてやったんだろ? 小うるさいマニゴルドの蝿からよ」
「頼んでないよね、それ」
遅れてテラスから降りた明彦は、庭園の様子を見た。
そこには、無数のマニゴルドの死体が転がっていた。すでに全滅しているようだった。
「『プレデター』の岡地留美と『ネクローシス』の渋谷明彦、だな。へへ、楽しめそうだな」
「もう一度聞くよ。君、誰?」
「俺か?俺は『ブレード』。『正義』に仕える使徒だ」