『アーペレジーナ』
男子寮側から侵入したマニゴルドの騎士たちは2手に分かれた。
一部屋一部屋を調べてストゥレーガを探す部隊とそのまま他の場所に向かう部隊だ。
その部隊がちょうどエントランスに差し掛かったときに異変は起こった。
先頭を走っている騎士の足が止まったのだ。
後続の騎士は不振に思いつつも同じように立ち止まった。
どうしたのかと尋ねることはできない。
それは私語だからだ。
マニゴルドはひとつの群体でありその中に個人はない。
働き蟻のようにひとつの目的のために無心で動かなければならないのだ。
別の部隊の騎士は先頭で立ち止まる騎士を追い抜き、エントランスに入った。
そこには背の低い少女が立っていた。
可憐な外貌とは正反対の冷ややかな眼差しを騎士たちに向けている。
少女、馬場久菜は一歩前に出て言った。
「呼ばれもしないのに集団で押しかける。あなたたち、失礼よ」
騎士たちは自分の身体に異変が起こっていることに気付いた。
身体が熱い。発熱、発汗、嘔吐感までがある。
騎士のひとりは熱さに耐え切れず兜を脱いだ。
他の騎士たちはそれを見て目を見張った。
兜を脱いだ騎士の顔には、無数の赤い斑点が浮かんでいたのだ。
騎士たちは慌てて手甲を外し自身の手を見た。やはり赤い斑点が浮かんでいた。
騎士のひとりが吐血しその場に倒れこむ。
それに続くようにその場にいた全ての騎士が倒れた。
久菜は特殊なウィルスを操る。騎士たちは、そのウィルスに感染させられたのだ。
「それが『アーペレジーナ』の能力? 噂通り残酷ね」
その声は入り口の扉から聞こえた。
扉はいつの間にか開け放たれ、そこからサングラスをかけた女性が入ってくる。
「……マニゴルドではないわね」
「あら、わかる? ええそうよ。私は白金」
「白金がなんの用かしら?」
女性はサングラスを外し、もだえ苦しんでいる騎士を見た。
騎士は見られた瞬間、一度だけ体を跳ね、動かなくなった。
「私個人としては用はないんだけど、付き合いよ」
「……あなたは誰?」
女性は心底可笑しそうに笑い、名乗った。
「聞いたことぐらいはあるでしょう? 私は『正義』。ゲルトルート・ガルボよ」