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フォートフィフス襲撃

 その日のフォートフィフスは夜まで実に穏やかなものだった。

「大久保隊長、先に失礼します」

「ああ、ご苦労だった」

 大久保芳樹は通いの部下を定時で帰し、作戦室から出た。

 黒金としての仕事は終わりだが、ここから彼女の仕事、寮母としての、が始まる。

「よーしき~、晩御飯まだ~?」

「今から作るから。ほら、これでも食べていろ」

 芳樹はまとわりつく留美に魚肉ソーセージを投げ与える。留美は嬉しそうにそれを受け取った。

「そういえば今日も下級生はいないんだったな。ふむ。作る量が少なくて助かる」

 芳樹は夕飯の準備に取り掛かった。

 鍋に火をかけ包丁を振るう。趣味で着ているとはいえ、メイド服は伊達ではなかった。

 夕飯の準備が終わる頃、渋谷明彦が部活から帰り、馬場久菜が図書室から出てくる。

 その日の夕食は4人揃ってのものだった。

「やっぱ巧くんたちがいないとこの寮も少し寂しいね」

 留美の言に明彦が同意する。

「ああ、そうだな。まあ、人口密度が半分になるんだから当然だが」

「大げさね。明日には4人とも戻ってくるでしょう?」

 穏やかな夕食は続く。

 だが、それは穏やかな1日の終わりと共に強制的に終了した。

 突然訪れる揺れと轟音。4人はイスから転げ落ちた。

「なんだ、一体?」

 芳樹は作戦室に走り出した。3人もそれに続く。

 作戦室では赤いアラームと警告音が鳴り響いていた。

「芳樹?」

「ああ、襲撃だ。山間から砲撃されている」

 芳樹はタッチパネルを素早く操作し、迎撃システムをオンにする。

 寮の庭に迫撃砲が現れ、攻撃を開始する。

 フォートフィフスは、その名の通り、小規模ながらも要塞(フォート)としての機能を兼ね揃えていた。

「……駄目だ。外部との連絡が取れない。これは、マニゴルドの仕業だな」

「直接襲撃してくるのは久しぶりだねえ。えっと、3年ぶりかな? 芳樹がここに赴任してからは初めてだね」

 砲撃は10分ほどで止み、マニゴルドが敷地内に侵入してくる。フォートフィフスの迎撃システムも遠距離用から近距離用に切り替わる。


 

 最新の現代兵器で武装するマニゴルドが近接戦に拘るのには訳があった。

 12番戦争初期、人類は白金を圧倒的な軍事力によって圧殺しようと目論んだ。

 しかし、それは早々に失敗する。

 古今を問わず、戦争の初動は情報戦により始まる。現代戦においてはその主流は人工衛星による電子戦だった。

 まず地球の大気圏上に浮かぶ数万の人工衛星が使用不能になる。

 『悪魔』の称号を持つコットンテールはインターネット空間を完全に支配下に置き、一部を除き、全ての人工衛星を地球に落下させたのだ。

 こうして、情報戦で完全に敗北した人類はほぼ全ての現代兵器を無力化された。

 一度、数人のストゥレーガに向けて放たれた核ミサイルは進路を変え、軍事的重要施設を消滅させたことがあった。

 現代において、軍事は言うに及ばず、医療、経済、実生活での様々な分野にマイクロチップなどの電子部品は使われている。

 その全てを白金の支配下に置かれた人類の軍事的優位性はなくなっていた。

 人類が白金に対抗するには前世紀に小国が大国に抗ったように、ゲリラ戦、またはテロリズムによる奇襲しかなくなっていたのだ。

 個体差で圧倒的に劣るマニゴルドが数を頼りに接近戦を挑むのは、実は、それがもっとも低コストであり、低リスクな戦法だったのだ。



「数が多いな。このままでは防御陣が破られるぞ」

 芳樹がそう言った直後、男子寮側から洋館内に騎士たちが侵入する。

「ほらあ、やっぱりここから破られた。前から言っていたでしょ?ここが弱いって」

「いや、私も上に進言はしていたんだが、問題ないって予算が下りなかったんだよ。理論上は問題ないってな」

「たまらないな。エクセルだけで仕事が出来ると思っているんだから。仕方ない。留美、行くぞ」

 留美と明彦が作戦室を出ようとする。それを久菜は止めた。

「私が行くわ」

 留美は久菜の顔を覗き込んだ。

「珍しいね、くーちゃんが自分から動くなんて」

「さすがに、人の家に土足で上がりこまれたら不愉快にもなるわ」

 久菜はそう言うと独り作戦室を後にした。

「さてと、明彦、私たちも行くよ」

「?どこにだ?」

「2階のテラス。あそこも弱いからね。芳樹はここでじっとしてていいよ」

「ああ、そうさせてもらう。とりあえず2時間ほど時間を稼いでくれ。それだけ連絡が取れなければ黒金の本部も異常に気付いてくれるはずだ」

「2時間もあればおなかいっぱいになるね。ご飯を中断されたお返しはしっかりさせてもらうよ~」

 留美は右の拳を左の手のひらに打ちつけ、明彦を引き連れて作戦室を出て行った。


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