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上野良治

 耳鳴りが始まり、騎士たちはスローモーションになった。

 空気抵抗のため身体が重くなる。

 俺は手始めに右から斬り込んでくる10人ほどの騎士を殺した。騎士たちには俺の残像だけは見ることが出来たかもしれない。

 10人目の胸に刃こぼれしたセラミックソードを突き立てる頃、最初に倒した1人目が地面に倒れる。

 騎士たちは、自分がなにをされているかわからないだろう。

 俺は間を置かずに剣を拾い、11人目に取り掛かった。


 俺は剣を一振りして血糊を払い、時伏せを解除した。

 身体を揺さぶるほど心臓が跳ねる。俺は胃からこみ上げてきた血の塊を吐き出した。

 実時間は10秒ほどか、全ての騎士は倒れ、庭園内で立っているのは俺とマービンだけになっていた。

 俺は剣をマービンに向けた。

「今回は逃がさねえよ」

「ストゥレーガ! 人類社会の敵! なぜ貴様らは正義に従わない!」

「1億歩譲っておまえらが正義だとしても、従えないようにしてるのはおまえらだ」

 俺はマービンにゆっくり近づく。

「この傾いた世界には神の正義による秩序が必要なのだ!なぜそれがわからない!」

「マイノリティであるという理由で差別されている俺たちが宗教的穢れ、差別の必然を認めるわけがないな」

 マービンとの距離は1メートルほど、一足の距離だ。

 急にマービンはいやらしい笑みを浮かべると、左手を俺に向けた。

 俺はそれを剣先で逸らした。

 轟音が俺の横を過ぎ去る。指向性爆弾だ。

爆弾を仕込んでいたマービンの左手は吹き飛び、なくなっていた。

「それはもう見た」

 俺はマービンを袈裟斬りにした。途中で剣が折れる。

 マービンは俺に右手を向ける。

 俺は手首を取り、投げ飛ばした。だが、手首ははずれ、投げはすかされた。

 その時、視界の端に少女の姿が映った。

「なに?これ」

 俺とマービンはほぼ同時にその声の主を見た。香苗だ。指向性爆弾の爆発音を聞いて見に来てしまったのか。

 マービンは一度俺を見てにやけると、香苗に向かって走り出した。

 まずい、マービンのほうが香苗に近い!

 俺は折れた剣をマービンに投げつける。剣はマービンの背中に刺さったがマービンは足を止めなかった。

 マービンの無くなった手首から剣が突き出る。

「きゃあ!」

 マービンは剣先を香苗の喉に突きつけた。

「てめえ、それが正義を謳う奴のすることか!」

「はは、形勢逆転だね!」

 俺は歯軋りした。香苗を見る。香苗は脅える目で俺を見ていた。

「香苗、じっとしていろ。俺がなんとかするから」

 香苗は涙ぐみながら頷いた。

「ああ、わかっているね。この状況は君にしか解決できない。君が大人しく死んでくれるならこの娘は殺さないであげるよ、約束する」

 心音を数える。鼓動は早い。だが、ためらってはいられない。俺は足に力を入れた。

「おっと!」

 マービンは香苗の白い喉に剣先を突き立てた。血が一筋流れ落ちた。

「能力は使わないでもらおうかな。いくら君が速くても私がこの娘を殺すほうが早いからね」

 マービンは笑う。

 下卑た笑いだ。

 自身では悪意の欠片も感じていない。自身の絶対的な正しさを疑いもしない群体に依存した人間の笑い方だ。とにかく、なんとか香苗から注意をそらさないと。

 

 ……その時だった。

 香苗とマービンの背後に背の高い男が立つ。

 上野だ。

 マービンの警戒は、上野が秋葉家の人間だとわかったことで解ける。

 

 そして、それは一瞬で終わった。

 上野が無造作にマービンの頭を片手で掴む。そのまま、首を捻じ切り、地面に落とすと同時に頭部を踏み潰した。

 赤黒い脳漿は上野の足を汚した。

 マービンの頭部の無くなった身体は未だに香苗に剣を突きつけている。

 マービンは、結局頭部以外は全て機械で出来ていた。

「お嬢さま。もう大丈夫です」

 香苗は上野にそう言われると腰を抜かしてその場にへたり込んだ。俺も大きく息を吐いた。

「上野、助かった」

「いえ。家人を守るのも私の仕事ですから」

 上野は俺にまっすぐ対峙している。

 俺は眉をひそめた。

 その様子を見て香苗が俺と上野を見比べた。

「上野?」

「お嬢さま、お館さまの言い付けを守り、屋敷内にお戻りください」

「え、でも……、巧兄さま?」

 香苗は俺を見るが俺は上野から目が放せない。

「上野、どういうつもりだ?」

「巧さまを今晩は秋葉邸から出すなとのお館さまの命令です。巧さま、どうか離れにお戻りください」

「状況を見て言えよ。俺を離れに入れておくのはマニゴルドに襲撃させるためだろう? それはもう失敗に終わった。俺を押し留めておく理由はもうないはずだ」

「お館さまから命令の変更を受けていません。それに……」

 上野は一度言葉を切った。

「ここで巧さまに去られては、巧さまと秋葉家との和解の機会はなくなります」

「おいおい上野、俺は秋葉家にとって害悪のはずだぜ。和解なんてしないほうがいいだろう?」

「それでも巧さまは秋葉家の人間です」

「はは。それ、4年前に聞きたかったよ」

 香苗は雰囲気に圧倒されているのか声も上げられない。

「申し訳ありませんが本気で当たらせて頂きます」

 上野は、腰を落とし、ゆっくりと構えた。


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