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『天秤』VS『プラントパペティア』

 天秤』は障害物を避けることもなく洋子に迫った。

「っち!」

 洋子がわずかに上を見た。それに呼応するように竹林が揺れ、大量の笹の葉が落ちてくる。それが『天秤』の身体を切り刻んだ。

「無駄だよ、そんなの!」

 笹は『天秤』の身体の中に沈み、ゆっくりと落ちていった。

 急に洋子は正志を見る。

「原!熱弾を!」

 今まで見ているだけだった正志はその声で我に返り、熱弾を『天秤』に放り投げた。

 熱弾自体には発火性はないが、熱段は笹の葉を媒介として一気に燃え上がった。

 笹の葉に囲まれた『天秤』は炎に包まれる。

 『天秤』の足が止まった。

 『天秤』は、しかし、事も無げに炎の中から出てきた。

 身体のあちこちからは泡が沸き立っている。

 『天秤』の身体はやがて泡も収まり、元通りになる。ダメージをまったく受けていなかった。

 洋子は正志に近づいた。

「原、熱弾を直接叩き込める? 私が囮になるから」

「あ、ああ。やってみるよ」

 洋子は竹から枝を一本折り、一振りした。枝は棒状の鞭へと変わった。それを洋子は『天秤』に叩きつける。

 鞭は微かな抵抗と共に『天秤』の身体に飲み込まれ、そのまま抜けた。

 洋子は再び『天秤』を打ちつける。

「利かないんだよ、そんなもの!」

『天秤』は洋子の顔を掴んだ。

 洋子の口と鼻に粘着質の液体がまとわりつく。

 液体が洋子の体内に流し込まれそうになった時、正志は『天秤』の腕に熱弾を撃ち込んだ。『天秤』の腕はぶくぶくと沸き立ち、洋子の顔から離れた。

 正志はむせ返る洋子の背中を撫でた。

「大丈夫か、恵比寿!」

「げへ、ごほ、なんであいつの身体にぶち込まないのよ!」

「え、いや、だって……」

 「はあ、はあ。次はしっかりやってよ」

洋子は立ち上がり、『天秤』を見た。『天秤』の身体には変化はない。

「おしかったね。だけど私の身体は水じゃあないんだ。この程度じゃ蒸発しないよ」

「それなら蒸発するまでやってやるわよ!」

洋子は前に出ようとした。その肩を正志が押さえる。

「なんなのよ、もう!」

「俺に考えがある!」

 正志は洋子に作戦を伝えた。洋子は少し考えた後、それを採用した。

「作戦会議は終わったかい?」

「ええ、さっそくやらせてもらうわ」

 そう言う洋子の周りを笹の葉が覆う。『天秤』から洋子と正志の姿が消えた。

「なんだ、逃げるのか! させないよ、せっかく面白くなってきたんだからさ!」

『天秤』は笹の葉の中に飛び込んだ。だが、そこには2人はいなかった。そして、笹の葉は一気に燃え上がった。

「またこれかい。言ったろ、利かないってさ!」

『天秤』は掻き分けるように炎を消していく。

「なるほど、ね。原の言うとおりだわ」

「やっとわかったかい? おまえらの攻撃は通用しないんだよ」

「ええ、今のままでは、ね」

 『天秤』は背後に気配を感じた。正志だ。だが、『天秤』は正志を無視した。正志は『天秤』の背中に能力の弾を撃ち込む。

「懲りないねえ、利かないんだよ!」

 『天秤』は振り返りざまに正志を打った。正志はそれをかわし、胸に能力の弾を撃ち込んだ。

「面倒だ!おまえから殺す!」

 『天秤』の両手が正志の顔を覆った。正志は呼吸を止められながら3発めを撃ち込んだ。

 『天秤』はそこで初めて自分の身体の異変に気付いた。

 『天秤』の腕に、地から伸びた竹が突き刺さった。

 竹は『天秤』の腕をすり抜けることもなく、粉砕する。

 むせながら正志は『天秤』から離れた。

 洋子は、動かない、いや、動けないでいる『天秤』に背後から寄った。

「なにを、したんだい?」

 洋子は『天秤』を無視し、正志に言った。

「ご苦労様、原」

「ごほ、ごほっ。ああ、うまくいったな」

 正志は洋子に言った。

 『天秤』の身体は液体だから物理攻撃をすり抜ける。ならば液体でなくせばいい。正志の能力は熱弾に見られる熱量の変化だ。それは、温度を上げるだけではない。冷やすことも出来るのだ。それが正志の切り札、冷弾だ。

 『天秤』は、冷弾で凍らされたのだった。

 洋子は『天秤』の肩を触った。

「うん、硬い。これなら壊せそうね」

「ま、まて!」

「駄目よ。あなたは割れなさい!」

 『天秤』の顔が引きつる。八方から竹が突き刺さり、『天秤』は粉々に砕けた。原型が残った下半身はぐらりと揺れ、倒れて割れる。

「ふう、終わったわね。原、大丈夫?」

「ああ、俺、役に立っただろ?」

「? ええ、助かったわ」

「そうだろう」

 正志は満足そうに頷いた。洋子は正志を訝しそうに見る。巧がこの様子を見れば「黙っていればいいものを……」と正志を諭しただろう。

「さ、行くわよ。寮のみんなが心配だわ」

「ああ、っと」

 走り出そうとした正志はよろけた。

「?どうしたのよ。行くわよ」

「すまん、ちょっと立てない」

 洋子は大きくため息を吐いた。

 おそらく塀の外にはマニゴルドがいるだろう。そんな場所に立てない正志を置いていけなかった。

 洋子は一度だけ巧のいる屋敷の方向を見て、正志に手を差し伸べた。


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