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家族のそれぞれ

「巧、ここにいたのね?」

 誰もいない道場を眺めていた俺に背後から声がかけられる。桃花だ。横にはすみれがいる。

「なんだ?来てたのか?」

「ええ、あなたが帰ってくるんだもの。当然でしょう?」

 桃花は例の作り笑いをした。俺にまで見せるってことは、もう顔に張り付いているんだな。

「巧さま、奥様がお待ちです」

「ああ、すみれ。わかった。行くよ」

 神前に一礼すると、俺は桃花の後に従って奥の間に向かった。

 桃花の後ろを歩いているすみれに近づく。

「すみれ、ちゃんと練習しているか?」

「はい、もちろんです。桃花さまの護衛も私の務めですから」

「明日帰る前に手合わせしてやろうか」

「よろしいのですか!」

 すみれはいきなり声を荒げる。

 桃花は立ち止まり、すみれを一瞥した。すみれは頭を下げる。

 桃花が再び歩き出すと、すみれは俺にだけ見えるように舌を出した。

「おばさま、巧を連れてきました」

「お入りなさい」

 俺と桃花は奥の間に入った。すみれは外に控えている。奥の間には、上座に中年の和服姿の女、これが俺のお袋だ、と、佳苗がいた。

「巧さん、久しぶりですね」

「ああ、4年ぶりかな」

 敬語を使わない俺に佳苗は眉をしかめた。お袋は、さすが年の功というべきか表面上に変わりはない。

 俺は胡坐をかいた。

「元気にしていましたか?」

「ご心配なく。楽しくやっていますよ」

「そうですか。あなたは秋葉の人間なのですから節度を守り……」

 俺は足を投げ出して話を遮った。

「用件はなんですか?」

「お兄さま、お母さまがお話している最中に遮るなんて無礼すぎます!」

 俺は佳苗を見た。先ほどのことが尾を引いているのか、佳苗はわずかに仰け反った。

 秋葉家は親父で6代目になる。確か3代目から東家から妻を迎える風習があり、近親婚が続いている。お袋も元は東の人間だ。

 東の家は秋葉の分家筋にあたり、その人間も秋葉と似たようなものだ。

 安っぽい権威主義者ってこと。

 俺のお袋も秋葉の家紋を絶対視する権威主義者だった。

 自分たちの狭い箱庭で権威を振り回すのならいいが、もはやその外にいる俺にそれに従えと言われても不快なだけだ。

「……話はお館さまが帰ってからにしましょうか」

「助かる。厄介ごとは一回で済ませたいからね」

 俺は立ち上がって、そのまま奥の間を出た。外にはすみれがいた。

 俺はすみれに肩をすくめ、その場を離れた。


 離れは、その名の通り、母屋から少し離れたところにある。屋敷の隅にある東屋だ。前には錦鯉のいる池があり、裏は竹林が塀まで続いていた。

 新橋は池を覗き込んで錦鯉を見ていた。俺に気付くと手を振ってくる。

「新橋、今晩は鯉の洗いにするか?」

「留美先輩じゃないんだからいつも食べ物のこと考えているみたいに言わないでください!」

「なんだ、違ったのか」

「……鯉こくがいいです」

 俺と新橋は一緒に離れに入った。中には恵比寿がいる。

 新橋に聞くと正志は部屋で寝ているらしい。今日は朝一の電車で寮に戻ったから眠いとのこと。その後ここまで来ているんだから恋する男子はなかなかハードだ。

「待たせたな」

「あ、秋葉。あんた、いいところのお坊ちゃんだったのね」

「まあな。退屈してないか? やることないだろ」

「大丈夫よ。それなりに時間つぶしているわ。それで、どうだった? 感動の再会はできた?」

「ああ、まあね」

 表情に出たのか、俺の顔を恵比寿は訝しそうに見ている。仕方ないな。俺は少しだけ本音を話した。

「和解の必要を俺が認めてないから」

「あんたも頭が固いわね。家族が仲良くするのは当たり前でしょ?」

「ひとそれぞれ、さ」

 俺は座布団を枕にして寝転んだ。

 そして、しばらくするとそのまま眠りに落ちた。



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