世界観説明
さて、そろそろ俺たちがなにものか、なにをしようとしているのかを話しておこう。それには、簡単に現代史に触れておく必要がある。
今世紀初頭、ある疫病のパンデミック(感染爆発)が起こった。疫病の名前をゴールドという。
ゴールドは対処する各国やWHOを嘲笑うように猛威を奮い、実に10億人以上の死者を出した。
人々は、いくら地位が高かろうとも、いくら金をもっていようとも防げないゴールドに恐怖した。人々はその恐怖に対抗するためにある儀式を行った。
それは、悪魔狩りだった。
対象はマイノリティ、少しでもコミュニティから外れる人間はストゥレーガ(悪魔付き)とされ、粛清の対象になった。
あいつは少しおかしい。きっとゴールドにかかっているに違いない。感染が広まる前に殺してしまえ。
科学万能とされる時代の問題が、もっとも非科学的な方法で解決が図られたわけだ。
今でこそ悪しき風習だったとされている悪魔狩りの被害者は、1000万人とも、一説では億を超えるとも言われている。
人権はおろか生存権すら否定されたストゥレーガがなにをされたかについてはあまり話したくない。話すにしても聞くにしても、吐き気がするほどの嫌悪感がわき上がってくるからだ。今朝のニュースのように、全身に針を突き刺す拷問などはいかにもありそうなことだ。人間がどれだけ残酷になれるかを試みた行いだったのだ。
そして、ここからは正史には載らないことだが、そのストゥレーガの中に、異能者がいた。
今まではサイレントマイノリティとして社会に溶け込んでいた彼らは、自己の身の安全のために悪魔狩りと戦った。
異能者たちは同じような力を持った仲間を集め、組織を作った。それが白金だ。由来は、自分たちとはゴールドは関係ない、潔白であるという意味らしい。
それから、マジョリティである人類と、マイノリティである白金の戦いが始まった。
後世の俺たちには、刑死者戦争、または12番戦争と呼ばれるこの戦いは、歴史の裏舞台で実に半世紀以上続けられる。
世界史の教科書にゴシックで記される大災害の多くはこの戦争の傷跡らしい。ちなみにこの名前は白金の結成当時の幹部は22人で、それぞれが大アルカナのカードを割り当てられ、その時のリーダーが12番、『刑死者』だったからだ。
停戦は人類側からもたらされた。いわく、ストゥレーガは国連及び各国の管理下に入りその身柄を監視下に置けば、その安全と生活は保障する。
ストゥレーガの多くはその提案を諾とした。
ストゥレーガといっても、そのほとんどが実社会を経験しており、白金に身を置いているのは命の危険があるため仕方なく、という理由だったからだ。また、実社会を体験している彼らには、監視下に置かれることにも抵抗は少なかった。当時から、生まれたときに網膜や指紋は登録されており、多かれ少なかれ国やそれに近い団体によって管理下に置かれるのには慣れていたのだ。
停戦ムードは高まっていく。
しかし、白金の最高幹部22人の内、多くが停戦には賛成しなかった。
今まで奴らにされてきたことを忘れたのか? これは悪しき敗北主義ではないか。
こうして白金は停戦派と抗戦派に2分される。
そして、当時の最高幹部のひとり、『塔』の称号を持つアイリーン・シルバーバレットは白金の8割を連れ、脱退して新しい組織を作った。それが俺の所属する黒金だ。
多くの構成員を失った白金がその活動を細々とながらも続けているのはまた別の話。
人類と和睦した黒金は各国の管理下の元、活動を続けている。やっていることは白金だったときとほとんど変わらない。
ストゥレーガの互助だ。
七草学園生徒会は黒金の下部組織であり、俺を含めた生徒会役員7人は全員ストゥレーガだ。
俺たちは憶良市やその近辺でストゥレーガ絡みの事件が起きた場合はその対象者を仲間に引き入れるために交渉し、保護下に置く。
そして、黒金には、白金にないひとつの仕事が加わった。もしそのストゥレーガが黒金のスカウトに応じず、仲間にならない時は、その対象者を粛清する。
つまりは殺すのだ。