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帰宅~放蕩息子編~

俺たちは1時間ほどローカル線に揺られて俺の実家がある最寄り駅に着いた。

ここから歩きで30分ほどだ。

駅前は片道3車線の大きなロータリーのある小奇麗なものだ。だが、それに反して人手はほとんどない。

そこで俺は嫌なものを見た。

「役立たず!あなたの時給程度で私の貴重な時間を賄えると思っているの?」

「すいません、お嬢様」

赤いリボンをしたセーラー服の少女が運転手だろう中年の男を頭ごなしに怒鳴っているのだ。

少女はその外見とは似使わしくない言葉で男を罵る。男は少女の言われるままになっていた。

恵比寿はそれを見て眉をしかめた。

「なに、あれ?」

「この街の弊害」

俺は少女と運転手に近づいた。

「いい加減にしろ。街中でみっともない」

 少女は驚いたように俺を振り返った。この街で自分に逆らう人間がいるとは思わなかったのだろう。

 少女は嫌な笑みを浮かべて言った。

「あなた、よそ者ね?いいことを教えてあげる。ここでは私に逆らわないことね。さもないと、拘置所に何日か泊めてもらうことになるわよ」

 まあ、4年ぶりだしな。覚えていないのも仕方ない。

「きゃんきゃん吠えるな、馬鹿が。すねかじりが凄むのに一々他人の威を使うな!」

 恵比寿と正志は言葉遣いの変わった俺に目を見張っている。

 いけないね。どうも地が出てる。

 新橋はというとなぜか懐かしそうに俺を見ていた。

 少女は目を剥くと、俺を平手打ちしてきた。

 踏み込みも甘いし振りも弱い。武道の練習をおろそかにしている証拠だ。

 俺は少女の手を掴み、捻りあげた。

「いた、痛い!あなた、秋葉の人間にこんなことしてどうなるかわかっているんでしょうね!」

「秋葉?どこの野良犬だ?」

 俺はさらに少女の手を捻る。運転手は少女を助けようとするが、俺の一睨みで動けなくなった。

「ちょっと!やり過ぎよ!」

 恵比寿が俺を止め、俺は少女の手を離した。

 少女は悔しそうに涙目で俺を睨んでいる。俺は少女を見下した。

 そこに、2台のリムジンが俺たちの横に止まった。

 少女は一転して勝ち誇った笑みを俺に向ける。

 リムジンからは数人の黒服と背の高い、銀色の髪とひげを持ったスーツ姿の男が降りてきた。

「上野!こいつ、よそ者よ!私に無礼を働いたわ!」

 スーツ姿の男は少女を無視し、俺の前に来ると、腰を90度折り、頭を下げた。

「おかえりなさいませ、巧さま。お迎えが遅れて申し訳ありません」

 スーツ姿の男の名は上野良治うえのりょうじ。秋葉家の執事で俺の武道の師匠だ。すみれの父親でもある。

 少女と恵比寿たちはきょとんとその様子を見ていた。

「上野、貴様が付いていながらなんだ、この佳苗の不甲斐なさは!」

 少女の名前は秋葉香苗あきばかなえ。俺のひとつ下の妹だ。

 自分で言っておいて内心苦笑する。佳苗の振る舞いは秋葉で育った人間の特徴だ。

 今、俺が上野を怒鳴り散らしているのも、路上で年上を罵倒しているわけで、さっきの香苗と大差ない。こうなるように教育されているのだ。

「私の不徳の致す所です」

「たくみ? 巧兄さまなの?」

 俺は佳苗を無視し、上野に頭を下げさせたまま黒服がドアを開けているリムジンの後部座席に乗った。

 おっと、いかんいかん。

「おーい、恵比寿、新橋、正志。早く乗れよ」

 新橋は躊躇うこともなくリムジンに乗った。

 恵比寿と正志は少し躊躇いながらリムジンに乗る。

 後列で4人が乗ってもまだスペースがある。

 扉は閉まり、リムジンはゆっくりと走り出した。

「……びっくりしたわ。あんた、相当な内弁慶だったのね」

「耳が痛いな」

 リムジンは10分ほど走ったところで止まった。

 車を降りると、そこは広大な日本庭園がある武家屋敷だった。

 秋葉邸だ。

 広さ自体はフォートフィフスと変わらないが無駄に金をかけている。

「「おかえりなさいませ、巧さま」」

 30人近い使用人が総出で俺たちを出迎える。

 新橋は堂々としたものだったが、恵比寿と正志は面食らっていた。

 俺も、昔はこういう生活に慣れていたんだなあ。

「上野。まずは客人を部屋に案内してやってくれ」

「はい。離れを用意していますがよろしいでしょうか」

「ああ。あそこならくだらないごたごたに巻き込まないで済むな。助かる」

 上野は恵比寿たちを離れに案内するために俺から離れた。

 俺はそのまま玄関に上がる。侍女のひとりが脱いだ俺の靴を揃えた。

「巧さま、奥の間で奥さまがお待ちです」

「俺に用はない。待たせておけ!」

 ふと気付くと侍女は声を荒げた俺に怯えている。俺は頬を叩いて顔を変えた。

「いや、悪い。少ししたら俺から出向くと伝えておいて」

 侍女は急に態度を変えた俺に戸惑いながらも頭を下げた。

 俺は、自室として使っていた部屋に入る。

 殺風景な部屋だ。俺の私物が片付けられたわけではなく、昔からこうなのだ。

 10畳ほどの和室に本棚が2つと机が1つ、それだけだ。

 本棚の中も学校と習い事関連、後は寺社仏閣関連の書籍が数冊だけ。

 自室はただ寝るだけの場所だったのでこんなもんだ。

 片付けないで残しておいてくれた、というよりは部屋が余っているから放っておいたってところだろう。

 部屋の中央に畳まれた着物が置かれていたが、俺は無視して、荷物を置くと部屋を出た。

 奥の間に続く廊下を歩く。

 ふと、あるものが目に入った。

 道場だ。

 俺は渡り廊下を歩き、道場に入った。

 そして、昔を思い出した。


巧には1ヶ月生まれの早い弟がいますが今回出番はありません。ちなみに年上なのに弟というのは、巧が正妻の子供で弟は妾の子供だから、上下関係をはっきりさせるためにそうなったのでした。

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