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巫女舞終わって

「あー、疲れた!」

恵比寿は居間で大の字に寝転がった。残念ながら巫女装束はすでに脱いでいる。

テーブルには氏子さんのための仕出し弁当があった。

「お疲れ様です、洋子先輩。すごく綺麗でしたよ」

「ありがと、美異。秋葉、これからの予定だけど……」

「ああ、ちょっと寄るところが出来た」

「?どこよ」

「正志がこっちに向かっているんだってよ。あいつを拾わないとな」

「はあ?面倒くさいわねえ」

 恵比寿は身体を起こし、し弁当を食べ始めた。

「昨日も言ったけどもう一泊してもいいぞ」

「おねえ、そうしてよ。昨日はあんまり話せなかったし」

「由紀、駄目よ。秋葉さんのご両親にも挨拶しなくちゃいけないんだから」

 と、これはお袋さん。挨拶ってなんの挨拶だ?


 弁当を食べ終えて小休止をした後、俺たちは石段上の鳥居前に集合した。正確には新橋以外。

「まったく、用意の遅い娘ねえ。なにやってるのよ!」

「すいません、遅れました」

 新橋は小走りで俺たちのところに来る。

 格好は先ほどまで着ていた服とは違い、白いワンピースだ。

「なんでわざわざ着替えてるのよ」

「え?だってこれから秋葉先輩のご実家に行くんですよ? 似合いませんか?」

 新橋はその場でくるりと回ってみせる。

「似合ってはいるけど……」

「本当は振袖か白無垢のどっちにしようか迷ったんですけど、そこまで気負うとかえって逆効果かな、と思いまして」

 ……白無垢?

 恵比寿は同時にため息を吐いた。たちの悪いことに新橋には悪気がまったくないのだ。

「だからスーツケースなんて持ってきたのね。お母さん。これ、寮に郵送して」

 恵比寿は新橋のスーツケースを奪い、お袋さんに渡した。

「これからは定期的に戻ってくるのよ」

「あはは、考えとく。ここはちょっと遠いからね」

「巧くん、洋子のことを頼むよ」

「ええ、頼まれました」

「なにしれっと頼まれてるのよ!」

「みことちゃん、メール送るからね!」

「うん、由紀ちゃん。またね」

 こうして俺たちは恵比寿神社を後にした。

 俺と新橋は、軽い足取りで先頭を行く恵比寿の後について長い石段を降りていった。


 俺たちは来たときと同じようにバスに乗って漁村を出た。

 最初は親父さんが最寄り駅まで送ってくれると言ってくれていたが月次祭がまだ終わっていないので遠慮した。

 また1時間近くをかけて最寄り駅に行き、さらに1時間をかけて正志と落ち合う予定の駅に向かった。

 正志は駅に先に着いていた。

「遠いんだよ!東京から3時間はかけてるぞ。今のご時世、3時間あればアメリカを往復できる!」

「悪かったわね、田舎で」

 恵比寿に凄まれて正志はたじろぐ。マヌケ。

「正志、実家のほうはいいのか?」

「ああ。顔を見せたからもういい」

「それじゃあ、秋葉の実家に行きましょうよ」

 恵比寿は馴れ馴れしくも俺の手を取った。

 正志と新橋の視線が突き刺さる。

 俺は恵比寿の手を振り払った。

「俺の実家は恵比寿の実家ほど遠くはないよ」

「どうかしらね。そんなこと言ってすっごい田舎なんじゃないの♪」

 そう言って恵比寿は俺に顔を寄せてくる。近い近い!

 テンションの上がってきている恵比寿、ああ、これは昨日の新橋と同じだ。

 自分の用事が済んで気が楽になりやがったな。

 俺の緊張を解すためって理由もあるのかもしれないが、すっげえうぜえ。

 

 俺たちは駅のホームに向かって歩いた。俺の左には新橋、右には恵比寿。さらに恵比寿の右側に正志がいる。

 が、恵比寿は正志に背を向けて俺に絡んでくる。昨日いじめすぎたか……。

 

 俺は正志と恵比寿がいる時はなるべく正志と恵比寿を話させるようにしている。

 余計なお世話かもしれないが、友人の恋路を応援する程度の気配りはできるつもりだ。

 だが、今日のように恵比寿が正志をドン無視すると、正直、困る。

 付き合いが長い分、恵比寿にとっては正志より俺のほうが気を使わなくていいからだろう。俺も恵比寿には気なんて使わないしな。

 だから意識的な気配りが必要なのだが、今日の恵比寿は昨日の新橋と同じように難敵だった。

 

 俺は、険の篭った目で俺を睨みつけてくる正志を、なるべく見ないようにした。

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