恵比寿家~宴会後~
宴会は9時には終わった。明日が月次祭なこともあり、早々に切り上げたのだ。
俺は風呂をご馳走になり、10時にはあてがわれた客間に入った。
持ってきた文庫本を読み、眠気を覚えた頃に恵比寿は来た。
「秋葉、起きてる?」
「ああ。入れよ」
恵比寿は障子を開け、客間に入ってきた。
微かに甘い香りが漂う。恵比寿はどうやらお香をまとっているようだ。
「お疲れさん。なんか大変だったな」
「まあね。私もここまで人が集まるなんて思わなかったわ。私が小学6年生のときに一緒に登校した1年生のことなんて覚えてるわけないわよ」
「確か、5年ぶりの帰郷だったっけ?」
「ええ。あんたに会ったのはここを出た翌年だから、付き合いもけっこう長くなってきたわねえ」
恵比寿との付き合いは俺が七草学園に転入してからだからもう4年になる。
「それなりに色々あったわね。命を助けられたのも1度や2度じゃないし……」
同じかそれ以上に俺も助けられているが、恥ずかしいから口には出さない。恵比寿は、俺にとっては背中を任せられる奴だ。
「そうだぞ、感謝しておけ。おまえの欠点は俺を尊敬していないところだな」
「あんたはまずその悪言を直しなさい!」
それを最後に恵比寿は黙る。俺は恵比寿が話すのを待った。
「その……、ありがとうね。強引にでも私をここに連れてきてくれなかったら、多分私は家族と和解できなかったから」
「礼を言われることでもないよ。俺には俺の目的があったわけだしな」
「目的?なによ」
「巫女さんを見ること。それと……」
「それと?」
「おまえを困らせること」
「馬鹿!」
「明日もう一泊したらどうだ?ご家族も喜ぶだろう?」
「自分だけ逃げようったってそうはいかないわよ。明日はあんたの実家に行くんだから」
「うちはそんな楽しいもんじゃないんだけどなあ」
俺と恵比寿は笑った。
「しかし、正志も来ればよかったのにな」
「原?なんで原が急に出てくるのよ?」
「……恵比寿、正志のことどう思う?」
「??同じ寮生でしょ?」
完全に脈なし、か。がんばれよ、正志。
そのまま恵比寿としばらく歓談した後、俺はあくびをした。久しぶりの長旅で疲れていたのかもしれない。
「さて、俺はそろそろ寝るぞ」
「あ、もうこんな時間ね」
「一緒に寝てくか?」
恵比寿はなぜか黙り、心なしか身体を寄せてきた。恵比寿の甘い体臭が香る。俺は2度目のあくびをした後、言った。
「まさか夜這いに来たわけでもないんだろ。おまえも明日に備えて早く寝ろよ」
恵比寿は一瞬驚いた顔をして、下を向いて表情を隠した。
「……そうね。デリカシーのない」
?女ってのはよくわからない思考をする。恵比寿は障子を開けた。
「じゃあね、秋葉。また明日」
「ああ、おやすみ」
俺は恵比寿が障子を閉めると同時に眠りに落ちた。
申し訳ありませんが、明日(1月31日)はお休みです。というのは、次回投稿は、カタルシスのない人死にがありますので・・・。なるべく月曜日は鬱にならないものを掲載したいという、どぶねずみの勝手な思惑からですが、どうかご了承ください。