昔の出会い3
どれくらい経っただろうか、波は引き、浜は町から引き込まれた雑多なもので汚れていた。
小船は津波によって圧壊し、跡形もなく海に飲まれていた。
ぐらりと、砂浜に縦に突き刺さったワゴン車が揺れ、倒れた。
『世界』はひとり、浜に立っていた。
検分するように浜を歩く。
「波に飲まれましたか。つまらない」
『世界』は髪を払うとその場を後にしようとした。
だが、出来なかった。
背筋を走る悪寒、そして、上から押される物理的な圧力。
『世界』は上空を見た。そこには、ゆっくりと降下する美異がいた。
「重力を軽くして空に逃げたのですか!」
美異は両手を上に掲げている。美異の手の上には、直径1メートルほどの禍々しい黒い『穴』があった。
異常な力場に回りの空間が歪んでいる。『世界』は戦慄した。
「待ちなさい!そんなものを使って地球を壊す気ですか!」
「まさか。あなた程度を消滅させるのにそんな力は必要ありませんよ」
『世界』はぎりと歯を食いしばった。
もはや『世界』に余裕はなく、押し潰される圧力で逃げ場はない。
『世界』は持ち得る最大の能力を発動した。
「落ちなさい!」
『世界』が上空にいる美異を指差すと同時に、海から巨大な螺旋状の3本の槍が飛び出した。
3本の槍は一直線に美異に向かっていく。
質量、速度、その全てがさきほどの水槍の比ではない。もし直撃したのなら高圧縮で吐き出された水のように全てを切り裂き、よしんば直撃を避け得たとしても、螺旋の回転に引きずり込まれ、美異は身体ごとねじ切られるだろう。
美異は迫る死を凄惨な笑みで笑い飛ばした。
「消し飛べ!」
美異は両手を振り下ろした。
黒い『穴』はゆっくりと、落ちていった。
それを迎撃するように伸びる3本の槍。
4つの高物質は衝突した。
空間が歪み、帯電する。
ほんの一瞬の拮抗、槍は解けるように霧散した。
黒い『穴』は徐々に加速していき、『世界』に落ちていく。
ぱらぱらと、『世界』の周りの、津波によって水に濡れた重い砂が舞い上がる。
ふわりと、『世界』から重力が消える。黒い『穴』は『世界』の胸に吸い込まれた。
そして全てが消えた。
グラウンド0を中心に起こる大爆発、範囲内にあるものは全て消失する。
人も、地も、あらゆるものが消し飛んだ。
美異は、空からゆっくりと今出来たクレーターに降り立った。
傷めた足を着け、顔をゆがめる。
だが、すぐに美異は空を仰いだ。
思い浮かぶのは今の戦いのことではなく、先ほどあった少年のこと。
美異の足が水に濡れた。窪んだクレーターに海水が入り込んできたのだ。
美異は自身の周りを軽くすると、片足だけで飛び上がり、クレーターの外に出た。
こうして美異は『世界』の称号を得た。
そして、ここから美異のストーキングが始まる。
名家の出である秋葉巧を見つけるのには苦労はなかった。
美異は巧について調べた。
過去のこと、現在のこと。
最初は好奇心に過ぎなかったものが恋心に昇華するのには時間はかからなかった。
周りから孤立している巧を知り、彼を理解しているのは自分だけだと優越感に浸った。
巧が自分と同じストゥレーガだと知った時は狂喜した。
だが、その喜びは長続きはしなかった。